= 3 =

 魔王の血。負の闇を孕んだそれは、反発する力で出来た体に取り込めば毒となる。
 それでも構わなかった。
 憎んで哀れんで羨んで欲して止まない、この魔王と呼ばれる魔人の……半身の一部だと思えば。
 この毒で己の力が相殺され、減衰しようと。
 今組み敷いている存在が、屈辱と怒りに満ちた顔を向けてくるその為なら、多少の毒も快感を呼び起こす媚薬でしかないのだ。
「なんだ。物足りなさげな顔だな」
「……誰がッ……」
「目玉ばかり構われて、寂しいのか……?」
 手にした眼球をまるでガラス球のように手中で弄びながら優しい声音で放たれるその言葉は、しかし当然相手を侮辱するためのもので。
 見る人によっては穏やかに見えるその笑顔すら、蔑むためのもの。
 それが分かっているから、組み敷かれた側は更にその胸の内に憎悪を募らせるのだ。
「そう睨まずとも、好きなだけ……私が飽きるまで遊んでやろう」
 だから、愉しませろ。と傲慢な態度で囁き、デウスは打ち込んだ楔を更に深く押し込むべく体を倒す。
 密着する体と体。
「……っ、ぁあぁ……ッ」
 筋肉質ではないが、体躯の良い腰を無造作に掴んで、ぐいっと抱き寄せ最奥を暴く。
 そこに労りなどありはしない。
 ただ、憎み嫌悪すべき相手を手酷く痛めつける為の行為があるだけだ。
 それは、組み敷かれる側も同じこと。
 ただ良い様に遊ばれるだけでは済まさないと、獰猛な牙をむき出しにし、抱き寄せられ近づいた男の白い首筋に齧りつく。
 深く牙を突き刺し、肉を裂いて抉り取って。
 あふれ出る鮮血を舐めるように首筋を舌先でなぞり、開いた傷口にその先を潜り込ませて、中を陵辱するように弄る。
 デウスにとってサタンの血が毒であるように、サタンにとってもデウスの血は毒。
 だが、この状況で力の温存など馬鹿馬鹿しいだけだ。己の自尊心を守るため、相手を痛めつける為であれば、多少の犠牲は厭わない。
「……ッ、」
 サタンのそんな必死の抵抗に、デウスは痛みを堪えるように軽く眉を寄せる。
 しかしその表情は苛立ちの中にも、どこか嬉しそうな雰囲気が漂っていた。
 そう、子犬がじゃれ付いてくるのを相手しているかのような、そんな余裕を持っていて。



<< back || Story || next >>