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「…………!!!!!」
疲弊し、傷ついた体でその力を受け入れるのは限界だったのだろう。
声にならぬ悲鳴を上げて限界まで仰け反った体は、大きく数度痙攣すると、ピクリとも動かなくなった。
「……サタン?」
声をかけても反応はない。どうやら気絶したらしい。
反応の無い相手を弄んでも面白くは無い。デウスは軽い溜息を一つ零すと、その身を放した。
「まぁ、よく持った方か」
様々な液体に濡れた体は、ボロ人形のように傷つき、千切れ、折れ曲がっている。
弱々しい気配しか発せない、無残な姿。そこに、普段の威厳は何処にもない。
天界に乗り込んできたときの、あの悪魔の軍勢を率いる魔王の貫禄も威圧感もなく、あるのは陵辱された憐れな魔人があるだけだ。
よく見れば、散々精を放たれ続けた腹は奥まで満たされ、まるで中期の妊婦のような軽い膨らみさえ見せている。
その腹に指先を伸ばし、デウスは己の体もまた、傷ついたままであることを思い出した。
「此方も手酷くやられたな」
軽く指先を振れば、爛れた皮膚も、抉られた首筋も、何事も無かったかのように傷一つ無い滑らかな肌に戻る。
表情の薄い顔。だが、見るものが……恐らく半身であるサタンが見れば、その向こうにある疲労を感じることが出来ただろう。
そして、一矢報いることが出来たと、満足げに嗤うに違いない。
だが、今目の前に居る半身は衰弱しきり、あの憎らしい悪態も、射殺さんばかりの視線も向けてくることは無い。
デウスは先程中断した指先を、再び腹に伸ばす。
傷つける意図ではなく、まるで僅かに膨らんだそこに愛しい子が居るような仕草で、そっと辿った。
「……いっそ、孕めば面白いものを」
神と魔王の子。間違いなく、忌み子と呼ばれるに違いない。
だが、何となく、見てみたい気がしないわけではない。
同じ造詣を持ちながら、それを構成する力も、有する色も気配も、存在意義も異なる二人。
そんな二人の子供は、この世界で一体どんな役割を持ち、どのような面白い出来事を生み出してくれるのか。
デウスはそんな馬鹿げた妄想を一笑に付し、行為の最中に無造作に放り捨てた、サタンの眼球を手に取った。
そして、ぐいっと元あった場所に嵌めこむ。
普通の人間ならば、この程度で治ることはないが、魔王ならば自然と元あったように神経も、血管も繋がる筈だ。
同時に、腹の中の精はそのままに、注ぎ込んだ己の力だけを軽く抜いてやる。
自己治癒能力だろう。相反する力と対抗する必要がなくなった魔力は、ゆっくりと、緩やかに、傷ついたサタンの体を癒し始める。
「……ぅ……」
同時に、呻くような声が治ったばかりの声帯から漏れた。
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