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「……あぁ、っ……ひ、んぁっ……ッぅ、ぁ、っ……」
「きもちいい?」
耳に注がれる優しい問いかけに、俺は首を左右に振る。
嘘だ。本当は、堪らなく気持ちいい。
このまま、達してしまいたい。
だが、それを認めたら、俺は、この悪魔を認めることになる。
「強情だなぁ……」
やめろ……そんな声を、出すな。
そんな、苦笑交じりの、慈しむような、声を。
今にも泣きそうな、切なげな声を。
悪魔、の、くせに……人間のような……アイツの、ような。
「は、ぁ……、ぁぁっ……ひ、ぁ……」
突き上げられて、衝動的に女のような声が上がる。
抱きしめられて、鼻腔を突く、甘い花のような香りに、溺れる。
首筋に口付けられて、その心地よさに震えた。
中を強く締め付け、反射的に絶頂へ上り詰める。
「、ァァ……ッ」
下肢に……繋がった場所に感じる、注がれる力。
それは灼熱のマグマのようにそこに留まり、暴れまわる。
全身に、広がりたいと。受け入れろ、と。
「……愛してるよ、レッティ」
耳元に囁かれる懐かしい言葉に、声に、心が揺らぐ。
「いや、だ……っ、」
認めたく、ない。
もう、この世には、居ない、のに。
アイツは、アイツは……死んだのだ。
「レッティ……僕を、見て」
見えない。
何も見たくない。
首を振って、俺は否定する。
腹が、熱い。
未だ繋がったままの下肢が、解放を求めてうずいている。
達したばかりだと言うのに、まだ卑しく欲を求めて。
全身を焼く快楽の熱に、酔う。
「レッティ……お願い……僕を、受け入れて?」
朦朧とする頭に響く、縋るような声。
達観して擦れたように見えて、いつまでも子供のような不安定さの抜けない、男。
唯一無二の、まるで家族のような、親友。
「……コー、ティ……」
走馬灯のように、記憶が流れていく。
肩を並べて、笑い合って。
時に言い争い、働かないあいつに、小言を飛ばした日々。
いつだって、安心して背中を預けられた。
「コンス、タン、ス……」
そうか。これは、夢だ。
夢に、抱かれている。
きっと、あまりの会いたさに、俺は、夢を見ているんだ。
「………………」
暫くの間の後。
「……そう、だよ……僕だよ」
搾り出すように返ってきた肯定に、俺は……力を、抜いた。
なら、いい。
別に恋愛感情は抱いていないが、必要があれば何をされても良い。
それくらいには、信頼しているから。
「……泣かないで、レッティ……」
「もう、……どこにも、いくな……っ……コーティ……っ」
守らせてくれ。今度こそ。
揺さぶられながら、俺は手を伸ばす。
背中に縋ろうとした手を掴まれて、絡めるように握られて、ホッとして握り返した。
この掴んでいる手が、本物なら。
本物の、お前なら。
俺は、受け入れる。
「……、くぅ、ぁっ……っ!!」
下腹部に溜まっていたマグマのような熱が、弾けるように全身を駆け巡る。
一瞬で内部を焼かれるような衝撃に、俺は意識を闇に引きずられる。
痛いのか、気持ちいいのか、満たされるのか、よく分からない。
ただ、薄れる意識の中で。
「…………ごめんね」
懐かしい甘い香りの中、震える声で謝る、友の声を聞いた気がした。
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