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「あ……あ……」
 先程までの気迫は何処へ行ったのか。おかしな程無様に震える悪魔に、男はキアランに向けたものとは違う、酷く冷たい一瞥をくれる。
「さて、少々おいたが過ぎたようだね」
 男が手を翳すと、その手中に漆黒の炎が生まれる。燃え上がるそれを払うように腕を振れば、その手に握られていたのは、死神を思わせる漆黒の大鎌。
 彼は背丈ほどもある巨大なそれを、笑みの引いた冷たい無表情で繰り、怯える悪魔に振り翳す。
「あ、あなた、は……ユーデ……っ!」
 皆まで言わせず、悪魔の震える言葉を切り裂く様に、男は刃を降り下ろし、その体を真っ二つに割いた。
 切られた悪魔は、断末魔の悲鳴を上げることもなく、ただ黒い塵となって風に舞い霧散していく。
「私は、リコリス、だよ」
 自嘲するように小さく囁かれた言葉は、誰に向けられたものか。
 彼は鎌を再び黒い炎に還し、片付けると、再び穏やかな微笑みを浮かべて、未だ腰が抜けているキアランを振り返った。
「大丈夫かい?」
 服も体もボロボロの彼に、そう軽い口調で問いかける。
「やった……のか?」
「消滅はしていない。当分……君が生きて居る間は、復活できないだろうがね」
 呆然とした呟きに律儀に答え、男は笑う。
「さて、あまり人間に小言は言いたく無いけれど……君は、もう少し、冷静に物事を判断する必要がある」
 突然始まる説教に、反骨精神豊かな若い祓魔師はムッと眉を寄せる。
「感情に任せて行動するという事は、大切なものを危険に晒す事になる。
 自分の命の話ではない。君の大切な人の、命の話だ」
 そこで、キアランはハッと顔色を変えた。
「そういえば、さっき契約って言わなかったか……!?」
「言ったよ。確かに、私は彼と……教皇と、契約した。
 君には、遅過ぎた警告だったかもしれないね」
 男は温和に微笑んで、残酷な言葉を紡ぐ。
 そして、黒い炎を呼び出し、キアランと自分の周りをぐるりと囲んだ。
「ついでだから、聖都まで送ってあげよう」
 今にも牙を向かんとする、鬼気迫る表情の青年に、彼は朗らかに言った。



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