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ガサリ、と茂みが揺れる。
まどろみから、瞬時に覚醒し、ユーデクスは気配を探った。
人間だ。それも、かなり力のある人間。
認識した瞬間、突然、灯りが目を焼いた。
すぐさま視界を調節し、ユーデクスは突然の来訪者の顔を確認する。
「……ッ……」
立っていたのは、まだ幼い子供。
大きく目を見開き、此方を凝視している。
だが、すぐさまその目は鋭くなり、殺意の篭ったものに変わった。
「貴様、魔物か!悪魔か!?」
子供は懐に手を差し込むとナイフを取り出し、警戒心を丸出しにして叫んだ。
同時に、自分だけでは敵わないと分かっているのだろう、声高に人を呼ぶ。
「司祭様!異形の獣が!」
司祭様。その言葉に、ユーデクスの体が強張った。
逃げなければならない。
【彼】の転生に……人生に干渉してはならない、と。
焦る理性に反して、足は、まるで地面に縫い付けられたかのように、動かない。
近づく足音。
懐かしい気配。
「異形? 珍しい、こんな教会の近くに現れるとは」
穏やかな、余裕すら感じさせる声が、鼓膜を震わせる。
あぁ、【彼】と良く似ている。
記憶の中にある、【彼】と。
声ではなく、その、纏う雰囲気が。
灯りを手にした背の高い司祭が、此方を確認してその色素の薄い瞳を眇めた。
しばし、視線が絡む。
それだけで、ユーデクスの心が痛いほど高揚する。
「ナイフを仕舞いなさい、ティオ」
「でも……!」
「大丈夫だよ。彼は悪いものじゃない」
そう言うと、司祭は茂みを掻き分けユーデクスへと近づく。
そして傍らにしゃがむと、巨大な獣に臆することなく、そっと手を差し出した。
「怪我をしているね。触れても大丈夫かい?」
問いかけにユーデクスはしばし悩む。だが、結局、体の力を抜いて司祭が触れやすいよう体を少し動かすことで肯定を示した。
「ありがとう」
微笑む彼の表情が眩しい。
ユーデクスは傷の具合を見る彼の様子を、まるで目に焼き付けるかのように、じっと見つめていた。
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