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「……後悔……しているのかい? ユーデクス」
それまで、触れられるままにじっと話に耳を傾けていたホーリィが、真っ直ぐな眼差しでユーデクスに問いかける。
問われた側はその眩しさに目を細めて……自嘲を含んだ穏やかな微笑を浮かべると、そっと視線を逸らした。
「……していないとは、言えないね」
その罪悪感に歪む横顔が胸を締め付け、ホーリィは無意識に彼の傷を撫でるように触れる。
優しい、労るような指先の温もりが、ユーデクスの罪の意識を癒すように染み込んでくる。
「もし……貴方の大切な友が、天界を去っていなければ……私は貴方とこうして時間を共有することもなかったのだろうか」
「さて、どうだろうね。……唯一つ言える事は、どんな形であれ、君が私の大切な友であることは変わらないよ」
たとえ、記憶を失っていようとも。
姿や立場が変わったとしても。
『ユーデクス』を救う、唯一無二の友であることには変わりない。
「……どうして、私なんだ?」
「うん?」
零された小さな呟き。不安から、だろうか。傷に添えられた指が、微かに震えている。
いつも真っ直ぐに見るものを射る、美しい白金色の眼差しは、今は不安定に揺れて頼りなく見えて。
「貴方は崇高なる智天使で、私はただの中級天使だ。確かに階級はもう少し上がれるだろうが、まだ時間が掛かるだろう。今の私では、貴方と並ぶには相応しくないと言われても仕方が無い。
……まして、貴方が大切にしていた友の代わりが務まるとは、とても思えない」
小さな、だが胸に仕舞いこんでいた感情を溢れさせるように、一息で言い切る若い天使。そんな友に、ユーデクスは眉を顰めた。
「ホーリィ。私は、君をアイゼイヤの代わりだと思ったことは一度もない。
確かに、階級が理由で話せない事柄もある。けれど、私は君と並ぶことを恥じたことは一度もないよ」
「……ユー、デク、ス?」
いつになく怒りを露にする智天使に、ホーリィは無意識に慄く。
強張る体を、ユーデクスは労わるように抱き寄せ、力強く抱きしめた。
「君が生まれた時、私がどれほど喜んだかわかるかい?
君を見た時、私がどれほど神に感謝したことか!
出来ることなら、いつだって、こうして並んでいたいと願っているよ」
部下の前でも、他の天使達の前でも。いつだって、友として並んでいたい。対等に笑いあって居たい。
しかし、まだ年若い天使はその言葉に躊躇いを見せる。
「でも、私は……」
「きっと、素晴らしく知的で思慮深い天使になれるだろうね」
楽しみだよ、とユーデクスは友の言葉を奪って微笑む。
そこに見えるのは、安心させようという意図ではなく、絶対的な自信。
恐らく彼の潜在能力ならば智天使まで上がるのは間違いないだろう。だが、そこは敢えてユーデクスは伏せておく。
同じ階級まで上がり、肩を並べることができるならば、それほどうれしいことはない。だが、この友が明確な意図を持って昇級を止めると言うのならば、それはそれで良いと思うのだ。
それに、昇級を慌てさせる気もない。ゆっくり、彼のペースで成長していく様を眺めるのも、またユーデクスの楽しみの一つなのだから。
「私の中では、アイゼイヤもホーリィも同じ、大切な友なのだよ。
アイゼイヤは私に世界を与えてくれ、君は私の世界を広げてくれた」
どちらか片方では、今のユーデクスは居ないのだと、断言できる。
「アイゼイヤは私に自我を与えてくれたけれども、君と違ってあまり感情を素直に表す天使ではなくてね。
その点、君の素直な言葉や感情は、いつも私を癒し、感情表現の方法をも教えてくれている。君の存在に、とても救われているのだよ」
アイゼイヤと同じように、だが彼とは違う方法で、確かにホーリィは『ユーデクス』という存在を救ってくれているのだ。
「だから、君はもっと自分を誇りなさい。私に愛されているのだと、自信を持っていいのだよ。
誰に何を言われようとも、君は私の唯一無二の友なのだから」
ね? そう笑いかけられ、ホーリィは僅かに顔を赤くして視線を逸らしてしまう。だが、その表情はどこか誇らしげで、頬も緩んでいるようだった。
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