お花シリーズ - 桜2

「良く来るな、嶋津(しまづ)」

「あ、はい。
 こんにちわ、先生」

 いつものようにお昼休みに覗くと、いつの間にか顔見知りになった先生が、笑いながら声を掛けてくれた。

 僕は頭を下げて挨拶した。

 それを見て、先生は笑顔で何度も頷く。

「やっぱり嶋津は和み系だな」

「ですよね〜」

 和み系???

 いつの間にか、やっぱり知り合いになった他の先生も来て、前の先生の言葉に頷いてる。

「あ、あの……?」

「そういや、嶋津はなんでこう頻繁に職員室に顔出してるんだ?」

「えっと……ちょっと人を探してて……」

「職員室ってコトは先生か?
 嶋津にこんなに迫られる先生って誰だろうな」

「先生。それ、一歩間違えば危ない発言ですよ〜」

「言葉のアヤだって」

 笑いあう先生達を尻目に、僕の目はキョロキョロと例の男の人を探してる。

「ぁ……」

 いた。

 現代文の……国語の教科書を持ったあの男の人が、僕のいるところからちょっと離れたドアから入ってくる。

 男の人が、こっちに気付いて、こっちに近付いてきた。

 やっぱりカッコイイ……ドキドキしちゃう。

「君は……入学式の」

「し、嶋津彩(あや)ですっ」

 僕は名前を言って、頭を下げる。

 目の前の男の人は驚いていた。

「おぉ、嶋津のお相手は笠寺先生だったのか」

「お相手?」

「昼休みとか朝とか、毎日来てるんですよ、この子」

「毎日?」

「そうそう。健気にうろちょろしてたんだよ」

「でも、笠寺先生いつも園芸部にいらっしゃるでしょう?」

「えぇ、まぁ」

「園芸部?」

 先生たちの会話を、僕はじっと聞いていたけど、ふと気になって口を挟んでしまった。

 3人の先生たちに一斉に見られて、悪い事をしたわけじゃないと思うけど……ちょっとビクビクする。

「笠寺先生は、園芸部の実質的顧問なんだよ」

「違います。私は趣味で……」

「そうですよ。木村先生だってちゃんと顧問なさってるんですからっ」

「……えっと……園芸部の部室って、花いっぱいなんですか?」

「そりゃぁ、まぁ、園芸部だから……」

 頷いた笠寺先生の言葉に、僕は胸が躍った。

 僕、花が大好きだから……!

「行って見たいです!!」

「え……?」

 希望すると、先生に困惑した顔を向けられた。

 だ、ダメなのかなぁ……?

「丁度いいじゃないか、笠寺先生。
 これから行くんだろ?」

「えぇ、まぁ……」

 先生の言葉に歯切れがない。

 やっぱり迷惑かな……?

「連れて行ってあげたらいいんじゃないですか?
 部員が増えますね」

「だから、私は顧問じゃないんですって……」

 苦笑しながら、先生は一度ここを離れる。

 僕はそれを、期待半分不安半分で見つめていた。

 先生は、席に荷物を置くと大きな鍵を手に戻ってくる。

「じゃぁ、嶋津……だったか?
 ついて来い」

「はいっ」

「いってらっしゃい、嶋津君」

「気をつけてなー」

 妙な挨拶に手を振って、僕は先生の後についていった。


  
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