お花シリーズ - すすき3

 電車に揺られ、今日のスケジュールの確認をし、授業のための教材研究を考えながら職員室に入る。

 そして、先に出勤して いる同僚の先生方と軽く挨拶を交わす。

 昨日は彩とニアミスしたが、そんな幸運は続くわけがなく、今日は彩の姿は無かった。

 いつも通りの朝。いつも通りの風景。

 ……の、筈だった。

「あれ?」

 自分の机に着き、荷物を置いて簡単に机を整理しようと手を伸ばした先。教科書や資料の並ぶ棚の前の見慣れないものに、俺は首を傾げる。

 空っぽだった花瓶に活けられた、白い花。

「……セキチク……?」

 誰かが親切で置いて行ってくれたのか……俺の花言葉好きは校内でも有名なので、嫌がらせで置いていったのか。

 親切だったらいいが、嫌がらせだとすれば随分と卑劣な方法だろう。他の人には気付かれず、人の心を傷つけるやり方。

 見た目は可愛い花だが、このセキチクの花言葉は随分とえげつないのだ。

「一体誰が……」

 眉を顰めて首をかしげていると、隣席する壮年の女性教諭が朗らかに笑った。

「それ、いつもの子が置いていったんですよ。

 えっとほら、あの小動物みたいな可愛い……」

 小動物みたいないつもの子?

 そんなヤツ、俺は一人しか思い浮かばない。

 しきりに首を捻る彼女を笑う余裕も無く、俺は予感が外れることを祈りながら、呟くように返した。

「……嶋津、ですか?」

 だが、その言葉に晴れ晴れとした笑顔を見せる彼女の笑顔に、俺の祈りは無残にも打ち砕かれたことを悟った。

「そうそう、その嶋津君。楽しそうに置いて行ったわよ。

 先生、よっぽど懐かれてるわねぇ」

 あはは、と笑う女性教諭に、俺は何とか笑みを繕って返した。


  
 戻る