お花シリーズ - すすき9

 廊下を走る。

 本当はいけない事だけど、とにかく今は先生に会いたくて。

 笠寺先生を、捕まえたくて。

 温室も、教室も、図書館も、どこにもいない。

 職員室に行って、近くにいた先生を捕まえて尋ねたら、「会議中だよ」って言われた。そして、「もうすぐ終わるだろうけど」、とも。

 僕は会議の場所を聞いて、すぐさま向かった。乱入するわけにはいかないけど、出てくるのを待とうと思って。

 今度はもう、逃がさない。

 絶対に捕まえて、僕の気持ちを聞いてもらうんだ。

 もう、嫌われたらどうしようとか、そんな考えは吹っ飛んでいた。

 これ以上避けられるくらいなら、いっそのこと嫌われた方がずっと楽だから。

 第二会議室。校舎の隅のそこで、会議は行われていた。そして僕は扉を睨むようにして、近くで待っている。

 10分もしないうちに会議が終わり、他の先生に混じって笠寺先生が出てきた。

「笠寺先生、ちょっとお時間、良いですか?」

 待っていた僕にびっくりした顔を見せて……先生は意を決したように頷く。

 よかった。けど、勝負はこれからだ。

「廊下じゃ何だから、温室に行くか」

「……中庭で、良いですか?」

 温室には、すすきがない。だから、そうお願いすると、先生は苦笑して頷く。

「わかった。このまま行こう」

 そうして、僕は逸る気持ちを押さえて……先生と中庭に向かった。



 驚いた。

 会議が終わって部屋を出ると、いる筈の無い人物に一瞬思考が固まった。

 いる筈の無い、会いたくて会いたくない相手が。

「ちょっとお時間よろしいですか?」

 随分余裕のない様子で声を掛けてきた彩に、俺は頷く。

 俺も、彩の本当の気持ちを……あの、花の意味を問い質したかった。

 いつも通り温室に行こうと促した俺を、彩は中庭にしたいと止める。

 それは、俺と和む気が……親しくする気が無いという意思表示なのだろうか。

 必死な表情の彩を拒むことは出来ず……俺は同意した。


  
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