お花シリーズ - 椿3
「いっそのこと、首にリボン巻けば? 『僕を食べて〜』ってさ。リボンならたくさんあるわけだしぃ?」
「こら。彩をからかうんじゃない」
スパンッと小気味良い音を立てて、昴に制裁を加えた人物を認識し、彩の顔が無意識に、しかし目に見えて綻んだ。
それに笑顔を返してくれるから、二人の間にはふわふわとした柔らかいムードが漂う。
「なんだよ、司(つかさ)っち。欲しいだろ? リボン付き彩」
唇を尖らせ、乱入者に抗議する昴。
彼を睨みながら、乱入者……司は、空いていた彩の横の席に腰を下ろした。
「そういうモンダイじゃない」
「欲望には忠実に生きないとっ」
睨まれてケラケラ笑う昴に、司は維持の悪い笑みを浮べる。
「いくら欲しくても、TPOをわきまえないのは動物と一緒だぞ」
その時、司の上着の裾を、彩は控えめに引いた。
途端、甘く蕩けた顔が隣に向く。不思議そうな、どこか必死さの漂う恋人の顔に、司の顔は安心させるように優しい笑顔に変わる。
「どうした? 彩」
「先生……欲しいですか? 僕のこと……」
その一言に、温室の空気が一変に固まった。
直後、起こる『花組』の笑い。
一方、問われた側はガックリと肩を落とす。その耳は僅かに赤い。
「……彩、頼むからこういう場所で煽ってくれるな……」
「えぇ?」
「先生も大変ですねぇ」
笑う周囲を戸惑って見回す彩を見て、昴は皮肉混じりに笑う。何も言わないが、立未も聖も同じ気持ちだろう。
からかう3人に、司は自棄になったように彩の肩を抱き寄せた。
突然のことに彩は焦って赤くなるが、嫌ではないので逃げ出したりはしない。
そんな初心で真っ直ぐな彩の無意識に男を誘う攻撃への意趣返しも込めて、司は言い放った。
「いーんだよ、彩は椿だから」
「椿……ですか?」
たまたま司の授業を受けていて、その言葉の意味に気付いた聖は、照れたように二人から顔を背ける。
全く解らない彩と立未、昴は顔に疑問符を浮べて、司を凝視した。
「そう、椿。『至上の愛らしさ』を持ってるってことだ」
得意そうに司がそう宣言した直後、温室内の温度が上昇したコトは言うまでもない。
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