お花シリーズ - 椿4

「わっ」

 昼休みが終わって教室に戻る途中、人通りの少ない廊下で、彩は司に引き止められた。

 前を歩いていた『花組』は彩の声に振り返るが、司が笑顔で手を振ると笑みを浮べ、同じように手を振り返して立ち去っていく。

 その姿が完全に見えなくなると、半ば強制的に抱き締められた彩は照れたように広い胸板へ頭をすり寄せ顔を隠した。

 すると、抱き締める腕が強くなり、彩の華奢な体を締め付けてくる。

「彩……椿とチョコレートと俺、どれがいい?」

 そして、頭上から降ってくる欲の滲んだ声。

 彩はハッとして身を硬くし……じわりと滲むように思い出される獰猛で優しい恋人の愛撫に我慢できず、広い背へ手を回して上着にしがみ付いた。

「……先生が、いい」

 想いのままに掠れた声で答えれば、途端に抱き締める腕の力が優しくなる。

 まるで、彩の言葉に安堵したように。

「了解。放課後、国語科室においで」

「国語科室?」

 聞きなれない言葉に、彩は首を傾げる。そんな部屋、この学校にあっただろうか?

「教員棟の、2階にある。事務には話をつけておくから、生徒会の書類でも頼まれたとか言って、通してもらえ」

 教員棟という言葉に、彩はあぁ、と納得の表情を見せた。

 教員棟とは、教師の為の研究棟だ。様々な貴重な資料が置いてある、いわば準備室ばかりが集められた棟だと思っていい。

 ただ、許可を受けなければ生徒は入れなかったり、職員室や教室のある本棟からはやや距離があるため、共同の談話室になっているといっても過言ではない。

 しかし、納得の表情を見せても、彩の顔は晴れない。

「いいんですか? そんな部屋つかっても……」

「大丈夫。放課後は誰も使わないし、残ってる国語教諭は部活か会議だ」

 彩も、今日は何もないから大丈夫だよな、と、彩が所属している生徒会の顧問はニヤリと笑う。

 その笑顔が妙に子どもっぽくて、なのにかっこよくて、彩は照れてはにかみつつ、笑みを見せて頷いた。


  
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