お花シリーズ - 椿6

 座ると沈む長くて大きめのソファに、優しく優しく横にされる。

 革張りのそれは、上着を脱がされたシャツだけの背中に微かな冷たさを感じさせた。

「な、なんか、ここで眠れそうですね」

 緊張にやや上擦った声で、彩は呟く。

 司は彩のカッターシャツを脱がす手を止めず、まるで世間話をするかのような気楽さで頷く。

「一応、寝れる用にはなってるからな」

 その妙に歪んだ笑みが吐き出す言葉に、妙な意味を読み取って、彩はその白い肌を真っ赤に染め上げる。

「凄いな。首まで真っ赤だ」

「……やっ……見ちゃだめ……ッ」

 直ぐに赤くなる子どものような自分が恥かしくて、でも赤くなる肌を止められなくて、彼は掠れた声で必死に訴える。

 けれど、非情な恋人は、ここぞとばかりに苛めてくるのだ。

「首だけじゃないな。……鎖骨も、こんなに綺麗に染まってる」

 寛げた制服のシャツの下、露わにされた浮き出た鎖骨をぺろりと舐められると、小さな体がピクリと撥ねた。

 その間にも、男らしくて大きな手はどんどん服を脱がせていき、可愛い子羊を生まれたままの姿にしていく。

「……せんせ……?」

 見事に全部脱がされ、触れる空気の冷たさに身を震わせた彩は、突然身を離した恋人に首をかしげた。

 不思議そうに見つめられる司は、上機嫌で彩の制服のリボンを手に取る。

「リボン付き彩」

 語尾にハートマークが見えそうな陽気さでいいながら、彼は手早くその水色のリボンを愛しい恋人の首に縛っていく。

 きつくもなく緩くもなく、丁寧に結ばれたそれに、彩はこれ以上ないほど赤くなって、潤んだ瞳で、ちょっと不安そうに年上の恋人を見上げる。

「やっぱり、欲しかったんですか?」

「バレンタインに恋人を欲しがらない男はいないだろ」

「うー」

 僕も男なのに……と口惜しそうに呟く彩は、言われるまでその心情が理解できなかったのが悔まれるらしい。

「彩も、俺が欲しかったんだろう?」

 出された選択肢の中で、確かに彩は『司』を選んだ。けれど。

「……先生、まだ脱いでないじゃないですか」

 僕ばっかりズルイ。と睨む彩は、その仕草こそが司の『男』を煽っていることに全く気付いていない。

 本能のまま、獲物を見据える獣のような目が、彩を捕らえて煌いた。


  
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