lucis lacrima - 1-2

 騒がしい食堂。

 いかにも戦いに身を置く者といった感じの、屈強な男。まだ入隊して間もないであろう少年。

 ありとあらゆる年齢の様々な兵士が、各々気の合う仲間と朝食を摂っている。

 クロエも同じように、彼らに混じって食事を摂っていた。

 毛の細いサラサラの漆黒の髪、吸い込まれそうなほど深い闇色の瞳。成長途中とはいえ、17歳という年齢の割には背が低めで、屈強な男たちの多い軍の中ではかなり小柄な方だといえる。

 少なくとも、その体格や風貌だけならば、畏怖の対象にはならない。しかし、真っ黒なフード付きコートを羽織った怪しい身形では、彼の近くで食事を摂ろうという者は殆ど居なかった。

 太陽のような強い光に当たると体調を崩すクロエは、普段からこのコートを羽織っている。色にこだわりはないが、何となく、黒が一番自分に相応しいと彼は思っていた。

「おはよう、隊長」

 自分の部下である自分より年上のまだ若い男が、いつものように明るい口調で話しかけてきた。

 顔を上げれば、性格に良く似て跳ね放題の蒼い綺麗な色の髪が目に入る。そして、人懐っこい雰囲気の鮮やかな緑色の目と視線が合う。

 名はルグス。

 細身だが戦闘能力に長けた男で、22歳という若さで副隊長になった。

 といっても、所属しているのは、17歳の隊長と副隊長の二人しかいない名ばかりの部隊。それすら、扱いが難しいクロエを上層部が動かしやすいように作られたものだ。

 そして、彼はその腕を買われてクロエのお目付け役として宛がわれた。

 だからこそ、ルグスは上司であるクロエにも気軽に話しかけてくる……友とも呼べる存在になっている。

「……相変わらず、黒いね」

「いつもの事だ」

 見たままの感想を漏らすルグスに、クロエはそっけない返答を返す。それでも彼は気にした風なく笑う。

 いつもそうだ。この青年は、自分にも、他人にも、戦闘中だろうが休憩中だろうが、こうして常に笑顔を向けてくる。

 クロエにとって、それが時々腹立たしく思うこともあるが、それに救われているのも確かだった。


  
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