lucis lacrima - 1-4

 白亜の壁の建物の一角にある、小さな小さな温室。

 天井は薄いガラスの窓で出来ており、太陽の光が柔らかく差し込んでくる。温室の中は緑の芝生の絨毯が敷き詰められ、色をつけた花がいくつも咲き、その中心には一本の高い木が植えてあった。

 その高い木の下、木陰になった所に二つの人影があった。

 木に凭れるように座る、真っ白なゆったりとした装束に身を包んだ若い青年。彼の膝を枕に横になる、真っ黒なコートを身に纏った若い青年。

 白い装束を着ているのがハクビ、黒いコートを着ているのがクロエだ。

 温室で和む彼らの顔も背格好も瞬時に区別が付くものではない。だからこそ、彼らが血を分けた兄弟であるという動かぬ証拠になっていた。

 二人の間に流れる、穏やかな時間。

 光が苦手なクロエは、片割れの傍に居るときだけ、何故かコートが無くても光の恩恵を受ける事ができた。だから、今はフードを外し、その顔に太陽の光を燦々と浴びている。

 逆にハクビは、闇が苦手だ。彼曰く、クロエが傍に居るときだけ、灯りを煌々と灯さなくとも何故か穏やかな夜を過ごす事が出来るらしい。

 多分、自分達は生れ落ちるときに、光と闇の耐性を綺麗に分割してしまったのだろう。

 けれど、だからこそ、唯一無二の存在がお互いで良かったと二人は心から思っている。

 クロエはハクビの天真爛漫な性格を。

 ハクビはクロエの、優しくてお人よしな性格を。

 それぞれ、心の底から愛しく思っていた。


  
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