lucis lacrima - 10-2
青年が目覚めた時、何故か世界は7年以上の時を経ていた。
子供だった体は明らかに大きく成長していて、目線も若干高くなって。
神官見習いとして神宮に上がったはずなのに、何故か軍服を身に着けていて。
目覚めて混乱する彼に、傍にいた蒼い髪の青年が、色々と説明してくれた。
神宮に上がった青年は、途中で軍に所属し、彼の上司になっていたこと。
そして、戦争は終結しており、王国が大陸を一つに纏めていること。
だが、それを快く思わない反乱軍が、神宮を占領して、そこを奪還する時に青年が大怪我を負ったこと……しかし、奪還作戦は間に合わず、国は神官長を失い神宮も崩壊状態にあった。
他にも色々説明してもらったが、何故か、大切な事が抜けているような気がしてならない。
けれど、それが何か、青年は自分でもわからなかったし、誰もそれを説明してくれなかったので、結局そのままになってしまった。
馬屋を出て賑わう街を歩きながら、黒髪の青年は隣で歩く赤い髪の男を見上げる。
突然、自分だけが世界に取り残されて、大きな喪失感と共に呆然とする青年を救ったのは、この男、シラナギ だった。
同じように大怪我を負った体を無理矢理動かして現れた彼は、同じように動けない彼を、その力強い腕で抱きしめてくれた。
『無事でよかった』そう言って。
あの時溢れた涙は、不安から解放された反動だったのか、それとも違う何かだったのか、今でもわからずに居る。
ただ、悲しみと絶望と安堵と喜びと愛おしさと、色々な感情が綯い交ぜになって、涙が止まらなかった。
それでも、じっと抱きしめ続けてくれる温もりに、喪失感を埋める事が出来たのは確かだった。
それから怪我が治ると、青年は所属していた軍を抜けて、男と共に旅を始めた。
街から街へ。神宮が崩壊したせいで、再び分裂してしまった国々を転々と移動した。 路銀が尽きると、護衛やちょっとした賞金稼ぎをしてまた移動した。
幸い、戦闘の腕は体が覚えているらしく、腕の立つ相棒の邪魔にはなっていない……と思う。まだまだ、自分を守るので精一杯なのだけれど。
夜や暇な時などは男が剣の相手をしてくれて、少しずつ体の技術が意識に追いついてきた。
元々出来ていたことだから、上達も早いのではないか、と彼はいっていたが……本当かどうかは判らない。
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