lucis lacrima - 10-3

 時折、軍を出るまで手伝いをしてくれた蒼い髪の青年に、状況報告の手紙を書く。

 そして、移動が多いせいで返事の届かない相手の無事を願った。

 自分達が王国を出た後に分裂してしまった国々では、戦争終結前と同じように小さな小競り合いが多くなっているそうだ。

 王国には、もう大陸全土を纏めるだけの力はない。統一前に領土だった土地を鎮圧するので精一杯らしいと、風の噂で聞く。

 その度に、王国に残った青年の安否を心配したが、彼は相当強くて容赦が無い、と真顔でシラナギが呟いていたので、多分大丈夫だろうと思う。

 実際、その言葉に妙に納得いく部分があったのは確かで、もしかしたら、記憶が退行する前は随分と信頼していたのかもしれない。




 道すがら、馬を売ったお金で食料や物資を補給する。

 徐々に増えていく荷物を二人で分けて、ついでに屋台で軽い食事を済ませた。



 先日、いつも一緒に居てくれる男に、どうしてこんなに面倒を見てくれるのか、聞いてみた。

 その時、青年を見下ろした瞳は何処か遠くて、彼ではない誰かを見ているような気がして寂しくなった。

 けれど、男は気づかないまま、一言だけ、『約束だからな』と答えた。

 その約束については、問いただしても教えてくれなくて、その時の拒絶した雰囲気にそれ以上聞けないで居る。



 いつか、教えてくれるだろうか……記憶を取り戻した時に。




「暫くは、また護衛とかで移動するのか?」

「そうだな。とりあえずは此処を拠点にして、職を探す」

 つまり、此処で暫く宿暮らしということだ。暫く野宿が続いていたので、野党や獣を心配せずに眠れるのは嬉しい。

 もともと傭兵だったというシラナギとの旅は、野宿でも楽しいが、やはり宿で眠る方が疲れも取れる。

「久々のベッドだ」

 やった。と小さくガッツポーズをとる青年を、シラナギは慈愛に満ちた笑みを浮かべて見下ろす。

 それに気付いた彼は、照れたように笑って子供っぽい自分を誤魔化した。



 今の生活は楽しい。  それでも、時々ふと何かが足りないと感じる事がある。


 無意識に体が戦闘態勢で動いた後。

 優しい風が頬を撫でた時。


 そして、空に浮かぶ眩しい太陽を見上げた時。



  
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