lucis lacrima - 2-3
力を持て余した男ばかりの軍で、欲を散らす機会など殆ど無い。
特に、あちこちで内乱が激しかった6年前は、外の花街に出かけることさえ時間的にも難しかった。
そんな中、白羽の矢が立ったのは、不浄なものとして神宮を追い出されて間もない、幼い無垢な少年だった。
何も知らないまま『召集』され、上官という、獰猛な狼どもの餌食になったのだ。
最初は、自分よりはるかに大きな体格の男たちに囲まれ、捻じ伏せられて、酷く怯えて泣き喚いたのを覚えている。
自分の方が、彼らより圧倒的な力を持っていたにもかかわらず。
尤も、それに気づいた今も、ハクビを人質に脅されて抵抗できずにいる。
軍の上司部とて、簡単に神宮の内部へ手を出せるとは思わないが、ハクビを煙たがる神官は少なくない。彼らと手を組まれれば、どんな被害が及ぶか判らない。
不意に顎をつかまれ、思考が反れるとすぐ、口の中に丸薬が放り込まれた。
熱を上げる薬。
この行為を受けて少ししてから、少しでもクロエが楽になるように、と男が独断で使い始めたらしい。
隊長達の中には、それが面白くないものもいるようだが、目の前の男が役割を外されたり、罰せられたという話は聞いたことがない。
多分、殆どの隊長達は認めているのだろう。
それもどうかと思わなくはないが。
そうしてすぐ、今度は柔らかいものに口を覆われる。滑る柔らかい肉が口内に入ってきて丹念に唾液を流し込み、丸薬を飲み下すのを手伝う。
昔と変わらない躊躇いがちな相手の舌の動きに、クロエは再び心の中で笑みを零した。
まだ幼い頃、あまり薬という物を飲んだことのなかったクロエが飲むのに苦労した。そのため、この男はが仕方なく、こうして援助してくれるようになった。
勿論、今はそんなことをされなくても、ちゃんと飲み下せる。しかし、それを指摘するのも面倒で、されるがままになっていた。
こうしてみれば、随分と至れり尽くせりな感じがする。と、クロエは濁り始めた思考の中、再び苦笑した。
「……、……」
即効性の媚薬に、耐え切れなくなった身体が崩れる。それを待っていたかのように抱きとめる腕の中に、完全に身を預けた。
小柄な身体は、すっぽりと逞しい腕の中に収まって、軽々と抱き上げられる。
そうして、横向きに抱き上げられたまま、クロエはゆっくりと長い階段を地下へと降りていく。
まるで、生贄のようだと、揺れる腕の中でぼんやりと思う。
大切なものを守るのと引き換えに、差し出す生贄。
いっそ、一度きりで何もかも終わるような、血生臭いものだったら良かったのに。
そんな事を考えながら、クロエは身体の奥底から燃え上がるような熱い劣情に、身も心も委ねていった。
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