lucis lacrima - 3-7
嘗て、大陸には一つの大きな国があった。
しかし、多種多様な民族が住まう国は、時として考え方や習慣の違いから争いを繰り返し、多くの小国に分かれてしまった。
そうして何百年が過ぎて尚、小国は小競り合いや勢力争いを繰り返していた。男達は争いに繰り出されるのが当たり前で、女子供ですら、時には兵器として扱われた。
その中でも比較的大きく、歴史の尤も古い国……現在大陸を統治している王国が、争いの世を憂い、大陸の統一を図り始めた。
それに賛同し、協力する国も少なくなかったが、抵抗した小国達も多かった。しかし、どれもその王国の力の前に捻じ伏せられていった。
その王国は二つの術を持っていた。
一つは光を扱う術。
増強術と呼ばれ、神官と呼ばれる者達が使うそれは、人間の力を一時的に著しく増幅させる効果がある。術を掛けられたものは体力が増幅するだけでなく、好戦的になり、まさに心も身体も無敵状態になった。
勿論、これは術が使える人間さえ見つければ、どの国にも得ることの出来る人間兵器だ。小国の中にも、僅かながら術を使う国はあった。しかし、これには副作用があり、あまり複数回に渡り術を掛けすぎると兵は精神を病み、急に日常生活で暴走を始める。
王国でも、そのせいで、処刑や幽閉といった処分を受ける兵も少なくなかった。そのため、限られた人材しかいない小国では、術を使うことに躊躇する傾向があった。
そしてもう一つは、闇を扱う術。
これは、他の国にはない特別な術だ。
術者が呼び寄せた闇は触れたものを飲み込み、跡形も無く霧散させる。そして、闇に覆われた土地は半年以上近づく事はできず、闇が消えても不毛の土地が広がるだけで、住む事はできない。
7年前、突如王国が使い始めたそれは、術者が誰なのか、見たものは誰もいない。
いや、術なのかどうかすら誰もわからなかった。幼い少年兵が引き起こしたものだという人も居れば、国王が悪魔と契約して使った呪いだと言うものも居た。
どちらにせよ、この二つの術を持って大陸を統一した王国は、統一を昔の大陸に戻しただけだと主張し、争いの後は力で捻じ伏せた小国にも平等に平和を与えていた。
治安を悪化させない程度に、貧困の差を広げすぎない程度に。
それでも力で得た統一は火種を燻らせる。
一つの国が統一することを良しとしない者達は集まり、反乱軍として時折小さな内乱を起こしては、現在の王国を滅ぼさんと試みている。
国もまた、そうした抵抗を力で捻じ伏せながら、何とか統一国家として存在している。
統一された王国が出来て5年。国はまだ、不安定な状態にあった。
← →
戻る