lucis lacrima - 4-1

 正直、護衛の仕事は暇だ。

 いや、『護衛の仕事』と一括りにするには語弊がある。正しくは、『今依頼されている相手の護衛』だ。

 神宮に居る護衛の仲間達と話していると、尚更そう思う。

 基本的に、あの小悪魔のような神官は外に出ない。出ようとしない。

 まだお子ちゃまで色事に興味がないのか、はたまた大切な片割れにしか興味がないのか。他の神官たちのように夜毎花街で子息繁栄に励むでもなく。気晴らしに、片割れの住む軍用の官舎や療養という名のピクニックに出かけるでもなく。

 自室で寝起きし、食事も自室で、外と言えば部屋に直結している中庭に出るくらいで、あとは上官に呼ばれるか仕事以外で部屋を出ることはない。しかも、その移動は全て神宮内だ。

 妬みや陰口といった嫌がらせはあっても、流血や暴力沙汰のような攻撃もないし、正直暇で暇で仕方がない。

 ここまで楽と言うか、辛い護衛もないと、フェイはぼんやり廊下を歩きながら思う。まさに、暇との戦いだ、と。

 こんな生活で、本当に彼は楽しいのだろうか。

 いっそ、自分がいなくても、軍に居る最強の片割れを護衛につければ全てことがすむのではないか、とも思う。

 今だって、その片割れがやってきているからこそ、フェイは暇を貰って……というか、部屋から追い出されて、仕方なく時間つぶしに、身を清めに湯殿まで行ったのだ。

 尤も、そう事が上手くいかないことも知っている。あの片割れが、この神宮でいかに酷い扱いを受けているか、この数週間で彼はいやと言うほど目にしてきた。

 すれ違うのを避けるだけならまだしも、あからさまな態度で、すれ違った直後に湯殿へ走る神官や清め水や祓いの文を唱える神官を見ると、思わず仇であるはずの自分が同情してしまいたくなる。

 この分だと、恐らく軍でもあまり良い扱いは受けていないだろう。そう思わせるに十分な程、彼はまるで不浄な悪魔か怨霊のような扱いを受けていた。

 本人は慣れだと笑っていたが、自分ならば確実にキれて暴れている。

 フェイは欠伸を漏らしながら、その悪魔様はもう帰っただろうな、と夕暮れに照らされる庭を見て思った。

 基本的に、あの片割れは長居をしないし、今日は何やら軍の上官に呼び出しを喰らっているようなことも言っていた。

「……寝る前に、部屋でも覗くかねぇ」

 軽く伸びをして、彼は自室に戻る前に、すっかり見慣れてしまった扉をノックし、返事が戻る前に開いた。


  
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