lucis lacrima - 4-3
これは……催淫剤、だ。
フェイは確信に近いものを感じつつ、そう思う。
今は無い祖国の軍や、反乱軍として戦場に居た頃、何人かの女や男に使ったことがある。一種の麻薬のように、効力の軽いものが兵の間に流行ったこともあった。
「もる……?」
「薬だ。誰に飲まされた?」
「……多分、食事……」
となると、犯人の特定は難しいかもしれない。部屋に運んで来た者=犯人とは限らない。コックの手で作られて此処まで、人の手が介せる場所はいくらでもあるのだから。
とはいえ、放っておくわけにもいかず、どこから犯人探しをしようかと考えるフェイの思考を、小さな声が止めた。
「いい……朝には、元にもどる……寝れ、ば」
一度や二度ではないのだろう。慣れた反応と笑みだ。
しかし、フェイは何より最後に付け加えられた言葉に眉を潜めた。シーツに埋もれる相手の様子を見ていると、依存性があるほど強い薬でもなさそうだが、それでも何もしないでいられるほど弱いものでもなさそうに見える。
「寝るって……寝れるのかよ、そんな身体で」
「……? だって、ただの、軽い毒、だろう?」
きょとんとする顔は、飲まされた薬が催淫剤だとは気付いていないようだ。この分だと、自分で自分を慰める事すらしたことがないだろう。いつも、こうして悶々と一人で耐えていたのだろうか。
確かに軽い毒、かもしれないが。自分なら絶対に耐えられない。
「楽にしてやろうか」
「……っ、ぁ」
頬に触れただけで切羽詰った吐息を漏らすハクビに、フェイは唇に笑みを形作る。
サラサラの黒髪に、まだ少年の幼さが抜け切らない容貌。自分より華奢な身体。多少骨ばってはいるが、触れる肌は柔らかくて感触がいい。
戦場でどうしようもない時ならいざ知らず、フェイ自身は基本的に男に興味がない。だが、目の前の青年は、抱くに問題ない容姿をしている。護衛で有りながらこんな目にあわせた負い目もあるし、相手が望むなら手を差し伸べるのは吝かではなかった。
「どうする? ……助けて欲しいか?」
「ん……欲しい……」
「いい子だ」
素直に頷いたハクビに、フェイは優しい笑顔でその頬にキスを落とし、シーツを静かに剥ぎ取った。首筋に口付けを落とし、細い体を跨いで寝台に上ると服に手を掛ける。
「……ちょ、フェイ!」
そこで漸く、ハクビが行動の異常に気付いて声を上げた。
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