lucis lacrima - 4-4

 弱々しい手でガタイの良い自分の肩を押し返そうとする動きに、止められた側は素直に従い相手の顔を覗き込む。

「なんだ?」

「何って……何を、するつもりなんだ……お前?」

 戸惑い視線を揺らすハクビの言葉に、フェイは訝しげな顔をする。言い出したのは、お前だろう、と。

「楽にして欲しいんだろ?」

「そう、だけど……」

 本気で戸惑うその表情は、何をされるのか全く分かっていないというか……理解していないようだ。

「お前に盛られたのは、催淫剤だ。となれば、するこた一つだろ?」

「さい、いん、ざい……っ、ん」

 言われた言葉を反芻するハクビをからかう様に、フェイはつ…、とその滑らかな首筋を指先で辿る。

 大げさなほど激しく反応を返す身体に笑って、彼は悩ましげに眉を寄せるその耳元で囁いた。

「安心しろ、今のお前なら、痛い思いはしなくてすむ。俺に任しとけ」

「な、で……」

「あ?」

「こういうこと、は、男と、女、でするもの、だろう……?」

 耳元で囁かれたせいだろうか。更に高ぶる欲望に瞳を潤ませ、震える声で問いかけるその様子は、堪らなく男を煽る。

 その上、そんな初心なことを言われて、フェイのハクビに対する思いがおかしな方向に揺らいでしまいそうになっても、だれも咎めはしないだろう。

「ったく、そこらの娼婦より、よっぽど性悪だぜ」

「な……んっ」

 文句を紡ごうとする唇を無理矢理己のそれで塞ぎ、元軍人の護衛は笑う。

「男同士でもヤれるんだよ。女ッ気のねぇ軍なんて日常茶飯事だ」

「お前も……?」

「もっぱらヤる側だけどな。無理矢理やる趣味はねぇから、嫌ならそう言やいい」

 自嘲気味に笑う男の頬に、ハクビの指先がそっと触れる。辛いのだろう。漏らす吐息は重く、熱を帯びている。

「いたく、ない?」

「……多分な。怖いか?」

 問われ、プライドからか逡巡する様子を見せたものの、若い神官は微かに首肯した。

 その普段からは想像もつかない、幼げで初々しい様子に、護衛は思わず慈愛の笑みを浮かべてしまう。

「大丈夫だ。何事も経験だぜ? 女側の苦労も知っといた方がテクも上がるしな」

 軽口を叩いて笑うフェイに、ハクビも、まだぎこちなさが残るものの、いつものように余裕ある笑みを返した。

 それを確認して、再び手の動きを再開させるフェイ。

「……ん……ぁ、」

 頬に触れた指先を顔を動かし舌で捕らえてしゃぶりながら、様子を探りつつゆっくりと衣服を肌蹴ていく。今度は制止の声が掛からなかった。

 それを合意とみなし、男はその動きを徐々に大胆に、怯えさせないようにと気遣いながら進めていった。


  
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