lucis lacrima - 4-9
「……ッ、」
細い手首に巻きついた赤い擦り傷。激しい陵辱の痕は、熱い湯が沁みた。尤も、沁みているのは身体の傷だけではないのだろうが。
軍の浴場。もう少し早い時間であれば、きっと何十人もの兵達で賑わっているであろう広いそこは、周囲が寝静まった時間帯では誰も入ることは出来ない。この浴場を24時間使えるのは、副隊長以上の役職を持つ限られた者だけだ。
お飾りとはいえ、一応『隊長』と呼ばれるクロエも、その恩恵に預かる事が出来る。
尤も、普通の『隊長』達は、簡易なシャワー付きの部屋を与えられるため、こんな真夜中に此処に来る者は殆どいない。クロエに与えられている部屋は、一応一人部屋ではあるが、シャワーなどの施設のない、副隊長クラスの部屋だった。
誰も居ない静かな大浴場にホッと息を吐いて、クロエは湯船に身を沈めた。
灯された薄明かりの中、赤く浮かび上がる擦り傷や鬱血の痕。見たくなくても目に入る。恐らく、自分では見えない場所にも沢山あるのだろう。
少し熱めの湯が身体についた忌々しい欲の痕を洗い流してくれるようで、涙腺まで潤んでしまう。クロエは誰も見ていないと知りつつも、瞼を閉じて静かに顔を伏せた。
後処理はいつも惨めな気持ちになる。薬のせいとはいえ、良い様にされて喘ぐ浅ましい身体はその熱を忘れたわけではないのだ。
中に吐き出されたものを掻き出す時、必ずといっていいほど劣情を再燃させる自分の身体。それを目の当たりにするたび、行為に慣れてしまった事を否が応でも認めざるを得なくなる。
穢れている、自分は。
分かっているはずなのに、それを知らしめられる度に、傷ついている。
「…………?」
人の気配を感じ、彼は顔を上げた。遠く湯気の向こうに見える影は体格のよい長身と、赤い豊かな髪……間違いなく、シラナギだ。
クロエは彼がこちらに気付いた事を悟り、近くの光が届かない闇の中へと無意識に身体を移動させる。首までしっかりと湯に浸かり、陵辱の痕が生々しい身体を隠した。
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