lucis lacrima - 5-10
指で一杯のはずの其処は、嬉しそうに蠢き、男と、持ち主の体を熱く翻弄させる。
痛みではない、予想外の甘く激しい快楽に、クロエは戸惑い、喘いで問うた。
「……や、ぁ……なん、で……ッ? くすり、使ってない、の、に……んッ!」
もっと、痛いと思っていたのに。
初めての時のように、我を失うほど泣き叫び、死にも似た痛みを感じるだろうと思っていたのに。
「……いい。そのまま、感じていろ」
「やだ、……ゃ……シラナギ……助け……たすけて……!」
涙を流し、快楽を貪る己の体に恐怖して首を激しく左右に振って、助けを求めるクロエに、男は指を引き抜くと容赦なく熱く猛る雄を押し付ける。
「大丈夫だ。此処にいる」
銜えるものを欲して蠢く体内に、牡の先端がグッと押し込まれる。先に進める事を、確認するように。教えるように。
軽く解しただけで、普段よりは少々狭そうではあったが、何とか奥まで入りそうだ。
そう感じ取ると、シラナギはクロエの体を押さえつけ、ゆっくりと、しっかりとその腰を進めていく。
「……ん、は、ぅ……」
流石に指とは質量が違う。
苦しげに眉を寄せる青年の顔には、だが、確かに隠しきれない艶やかな愉悦の色が見えていた。
苦しい。
心が、悲鳴を上げている。
体は、快楽を貪っている。
心の激痛と、体の悦楽が不協和音を奏でている。
「クロエ」
不意に耳に混じる優しいノイズ。
低い声が優しすぎて、まるでヤスリのようにザラザラと心を痛めつける。
助けて欲しかった。
血を流す心を、癒して欲しいのに。
己を貪る男は、優しい快楽しか与えてくれない。
違う。シラナギは何も悪くない。
悪いのは、この体。
痛みさえ快楽にしてしまう、この穢れきった体。
「助け……て、……シラナギ……助けて……おねが……ぃ!」
そう叫んで手を伸ばせば、力強い腕が抱きしめ返してくれるのに。
その腕は、心まで深く抱きしめ包み込むには、長さが足りなさすぎるように感じた。
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