lucis lacrima - 5-13

 どうしよう。

 朝、己のベッドで目が覚めたクロエは、頭を抱えていた。

 昨日、シラナギの部屋に夜這いをした。

 シラナギの部屋で寝たはずなのに自室のベッドに寝かされていたけれど。服は、昨日のままだ。

 何より体が、覚えのある倦怠感に包まれている。

「……どんな顔をすればいいんだ……」

 食堂へ行けば、シラナギに会うかもしれない。

 勿論、会わない可能性もあるが、もし会った時にどんな顔をすればいいのか。

 突然夜這いをかけて、散々泣いて、情けないところを見せたというのに。

 気まずい。この上なく気まずい。

 『召集』の時に裸は何度も見られているし、痴態も何度も見られている。

 だが、それ以上に気まずい。

「…………ぅー」

 朝の明るい光のせいで殆ど頭は回らない。今にも知恵熱で脳が沸騰しそうだ。

 解決策が見付からないまま頭を抱えて固まっていると、不意に扉が硬い音を立てた。

「たいちょーう。朝だよー」

 明るく間延びした、能天気な声。間違いない。ルグスの声。クロエはその声に、ほんの少し冷静さを取り戻して表情を固める。

 とはいえ、頭の整理は全くだ。

「朝ごはんたべよー」

 自分は食べないくせに、と頭の隅で突っ込みを入れつつ、クロエは朝日のせいだけではない、重い体を漸う動かしてベッドから降りる。

 適当な服に着替えて、手櫛で髪を整え、いつものように黒いコートとフードを目深に被って扉へと足を向ける。

 いつもの身支度を整えると、ほんの少しだけ頭がスッキリするようで、彼は小さく息を吐き出した。

 重い扉を開けると、満面の笑みを浮かべた部下が立っている。

「おはよ、隊長」

「おはよう」

「良く寝てたねぇ」

「……そうだな」

 他愛無い言葉を掛けてくる部下に、適当に相槌と返答を返しながら、ゆっくりとした足どりで食堂へ向かう。

 せめて頭が落ち着くまで会いたくないという願いも空しく、食堂に入る直前で、食事を済ませて其処を後にするシラナギと直面する。

 しかも、目までしっかり合ってしまっては、逃げることも出来ない。

 まして、何を思ったか近づいてくる巨体に、クロエは小動物のごとく立ちすくんで震えるしかない。


  
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