lucis lacrima - 6-14
力強い腕の中にいると、全てが許されたような気がしてホッとする。
そして同時に、罪悪感を覚える。
己を責め続ける罪の意識が、幸せを甘受しようとする自分の心にナイフを突き立てそれを引き止めようとするのだ。
最後の最後で、溺れる事の出来ない感情。
体は、こんなにも素直なのに。素直だからこそ、心と体の矛盾が摩擦を起こす。
「……ん、っ……」
呼吸を奪う口付けにしがみつく。早く、早く、何も考えられないほど溺れたいと。
男の首に腕を回し、赤い髪にしがみ付いてせがめば、逞しい腕が体の下に回り横抱きにされる。
「……自分で、歩けるっ」
「疲れているんだろう?」
確かに、体はだるい。だが、自分で歩けない程ではないし、何より恥ずかしい。
しかし、抗議の言葉は口から出る前に力の込められた手に封じられた。
軽々と持ち上げられ、ベッドへと運ばれる。当然のように慣れた手で脱がしてくる男に、不意に悪戯心が湧いて、クロエは自分を組み敷こうとする相手の衣服に手を掛けた。
「クロエ?」
問いかけに応えず、彼は男の上着を寛げ、中のシャツに手を伸ばす。
それは、挑戦だった。
いつも、されるがままの自分を変えたくて。
力強い腕に甘えるのではなく、自分から飛び込んで行きたいと思った。
少しずつ剥いでいく衣服は、目の前の男の心に少しずつ近づいていくようで、少し緊張する。だが、同時にワクワクした気持ちと妙に気恥ずかしい気持ちを覚える。
彼は、いつもこんな思いで自分の衣服を脱がしているんだろうか。
そんな事を考えながら、露わになった男の逞しい胸板に、クロエは相手の肩を抱き寄せ唇を寄せた。
命の歌を奏でる、命の中心に向けて。
「……ッ」
頭上で息を呑む音が聞こえて、唇を緩めて視線を上げる。
戸惑いつつも、獣を閉じ込めた闇色の瞳と視線が絡まる。
今にも青年に食いつかんとする、性欲の獣。まるで、『待て』の命令を喰らった犬のようだ。
それが何だか可笑しくて、クロエは赤い髪を掻き分け、男の頬に手を伸ばした。
「俺ばっかり、脱がされるの、恥ずかしいだろ」
「……そうだな」
シラナギは頷くと、静かに身を起こす。
ベッドに座って向かい合い、衣服を脱がしやすくなったその体制にクロエは改めて相手の衣服に手を掛け、一枚ずつはがしていく。上着、シャツ、……そして、ベルトを引き抜き、ズボンを寛げる。
更に下着に手を伸ばし、中からまだ力ない男の中心を引き出すと、自ら唇を寄せた。
「おい」
頭上から困惑した制止の声が聞こえたが、無視する。
丁寧に両手で掴んで、舌を絡めて愛撫した。
すぐに逞しい変化を見せる男に上機嫌になって、視線だけで表情を確認すれば、シラナギは気持ち良さそうに息を吐いて瞼を閉じている。
頭に添えられる大きな手。促すように頭部の頂点から後頭部にかけて動くそれが勇気となって、更に深く喉の奥まで咥え込む。
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