lucis lacrima - 6-16

「……ぁ、あっ……ん、!」

 声を上げて、クロエはその突き上げに身を任せる。

 涙を汗に変えて、感じるままに悶えて、喘ぐ。

 痛みが落ち着いて快楽に変わると、今度は彼も突き上げに合わせて動き出した。

「……、ぅ、は……んぁ、あぁ!」

 瞼を薄く開けると、撓んで揺れる赤い髪が視界を覆う。

 優しい赤。血のような、眩しい赤。

 手を伸ばしかけて、揺らされて、それにしがみつく。

 しかし、不意に優しく、だがどこか手荒に髪を引かれて、顔を強制的に合わされた。

 深い闇色の目が、自分だけを映して欲に濡れている。

 そこには、いつものような、哀れみや同情は無い。ただ、熱く求め、自分を慈しむ、力強い色がそこには満ちていた。

 この男にこんな風に求められることに、自分は震えるほどの、この上ない喜びを、幸せを感じている。

 あぁ、やっぱり、自分はこの男が。シラナギが。

「……好、き……」

 無意識に漏れた嬌声の合間の呟きを、男は聞き逃すことなく受け取り、いつもの彼からは信じられないような、喜びの垣間見える笑みを浮かべる。

 そして、噛み付くような深い口付けの後、再び視線を合わせて口を開いた。

「……俺もだ、クロエ」

 思いもよらない返答に、クロエは堪らず中の男を締め付け、その存在感に歓喜で身を震わせた。



 体がマグマのように熱い。熱くて、溶けそうになる。

 それなのに、二人を隔たる境界は決して無くなる事はない。

 薄皮のような、しかししっかりと存在する肌が、二人が別の生き物だと知らしめる。



 溶け合いそうで、決して混じらない曖昧で不思議な感覚を味わいながら、二人はほぼ同時に絶頂への階段を駆け上った。



「……で、良かった」

 互いに体を満足ゆくまで貪りあい、心地よい疲労感と共にベッドに並んで身を預けていた時。

 零れた微かな声を耳にし、クロエの黒い髪を撫でていたシラナギの手が止まった。

「無事で、良かった」

 もう一度、噛み締めるように呟かれる言葉。

 心から安堵するそれに、シラナギは同意した。

「そうだな」

 だが、青年は首を振って彼の手をすり抜け、顔を上げる。

 真っ直ぐな漆黒の瞳が、闇色の瞳を見上げる。

「違う。ハクビもだけど……アンタも」

「俺?」

 てっきり、彼の片割れの事だとばかり思っていた男は、意表を突かれて言葉を失う。

 案の定、勘違いをしていたらしい彼に、クロエは優しく笑った。

「殺してくれるんだろう?」

 俺を。止めてくれるのだろう?

 確認するように問う言葉に、シラナギはそのことか、と納得した表情で頷いた。

「あぁ。安心しろ。約束は守る。

 一人には、しない」

 真っ直ぐな言葉に、はにかむ様な笑みを零して、クロエは再び厚く逞しい男の胸に身を預け、顔を埋めた。

「俺も、アンタを一人にしないから」

 言葉に返事はなかった。

 ただ、優しい掌が頭を撫で、疲れた体を束の間の安らぎへと導いてくれたのだった。


  
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