lucis lacrima - 6-2
そもそも、自分は彼の事をどう思っているのだろう。
別に、自分は同姓愛者でもないし、そういう風にクロエを見た覚えはない。
だが、『召集』がかかる度に、不快感を覚えているのは確かだ。あの綺麗な青年が穢されるような気がして。
しかし、今はそれ以上にあの赤い髪の男が気に入らなかった。
自分が築き上げてきた関係に、横槍を入れられたような気がして。
クロエに一番近いのは、自分だと思っていたのに。
勿論、隊長が最も愛する片割れを別として。
軍の中で、彼が最も頼れる人間は自分だと思っていたのに、その座を奪われた気分に陥っている。
ルグスは知らない。彼らが出会うもっと以前、『召集』が始まった時から、クロエとシラナギが出会っていたことを。
『召集』の詳しい内容すら、彼は知らないのだ。ただ、風の噂で若い隊長が玩具にされているのだと聞いただけで、本人に確かめたわけではない。
あの赤髪の隊長は知っている筈だ。クロエが何をされているのか。
「……ッ、やめた」
これ以上考えると、普段自分が被っている仮面が崩れてしまいそうで、ルグスは湯殿に向かって歩き出す。
大丈夫だ。クロエの闇の力を目の当たりにして、無事で居られる人間など、そうはいない。
自分ですら、あの力には恐怖を覚え、立ちすくんだのだ。
ルグスは、闇に守られる上司の姿を思い出して、身を震わせる。
恐怖と共に、酷く憧れた。あの力を行使するクロエが、まるで神のように感じられて。
闇を率い、無を齎す死の神。
神々しく、穢れない、全てを浄化する神。
大丈夫だ。きっと、あの男だって耐えられるはずがない。
ルグスは、そう自分に言い聞かせて顔に笑顔を貼り付ける。
笑えるうちは、余裕があるということだ。
いつの時でも、余裕を失ってはいけない。常に、敵の上位に居なければいけない。
生まれたときから、過酷で生臭い戦場で育ってきた教訓を、平和になった筈の今でも彼は守り続けていた。
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