lucis lacrima - 6-6

 その日は、妙に晴れた寒い日だった。

 冷え冷えとした空気とは対照的に、燦々と降り注ぐ太陽の強い光にうんざりしながら、いつものように疲れた歩調でクロエは神宮内を歩いていた。

 片割れに用があったわけではない。神官長に呼び出されていたのだ。

 シラナギも含め、他の隊長達も呼ばれているようだし、呼び出しの理由が此処最近、街で頻発している反乱軍についてであることは容易に想像できた。

「……、……」

 しかし、今日は天気が良い。眩しい太陽をフードの下から覗きながら、クロエは疲れた吐息を漏らす。

 帰りにハクビの所に寄ろうか、そんな事を考えた時、不意に爽やかな風が吹いた気がして、彼は風上に感じた方……緑の溢れる中庭を見た。

 視界の向こうに白い衣装の神官が一人、廊下を近道するかのように突っ切ってかけてくる。確かめるまでもない。己の大切な片割れだ。

 たった今求めたばかりだった事もあり、疲労した青年はホッとした表情で思わず笑みを浮かべた。

「クロエ!」

「ハクビ」

 疲労のせいで疲れた声しか出せないが、それでも会いたかった思いは十分に伝わっただろう。お互いに笑顔で向かい合う。

 ハクビの背後には、苦虫を噛み潰したような、呆れた笑みを浮かべた護衛がゆっくりとした足どりで着いてきている。

 それに気付いたクロエは、相変わらずの二人に、嬉しいような、悔しいような、何ともいえない複雑な思いを胸に秘めつつ、中庭の方へ足を踏み出した。

 その時。

 中庭に茂みが不自然に揺れ、影が飛び出す。

 そのまま真っ直ぐに影はハクビに向かって駆け抜け、銀色の煌と共に彼にぶつかる。

 まるでスローモーション。

 はっきりとその様子が見えたのに、体が鉛のように動かない。冷たく肌を刺す空気に凍りついてしまったかのように、クロエはただ呆然と立ちすくんでそれを眺めている。

「ハクビ!」

 漸く声が出せたのは、片割れの護衛が影に飛び掛り、もみ合いながらも影を殴り飛ばした後だった。

 微かに飛び散る血、地面に倒れこむ大切な片割れ。

 クロエが認識できたのはそれまで。


 あとは、ただ、真っ黒な闇が世界を覆った。


  
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