lucis lacrima - 6-7
一瞬、何が起こったのかわからなかった。
ただ、突然何かにぶつかられて、布を引き裂く音が聞こえて、驚いて地面に倒れこんだ。
仰向けになったまま目を開けて見上げた時にはフェイが誰かと揉み合っていて、その肩を銀色の剣先が抉ったかと思ったら、一人の男があっけなく護衛の拳に飛ばされていた。
その時、漸く自分が襲撃されたのだと気付いた。
飛び散ったフェイの血が、数滴、白い自分の衣装を穢す。
「ハクビ!」
護衛の無事を尋ねようとしたが、背後からの叫びに声を奪われる。
片割れが心配してくれたんだとほっとする間もなく、起き上がった襲撃者が闇に飲まれて消えた。
まるで、風に砂が飛ばされるように、非現実的に、一瞬で、あっけなく。
嫌な予感がした。
上半身は起こしたものの、それ以上立ち上がる事ができず、体に力が入らない。
打ち所が悪かったわけではない。力が吸い取られているのだ。
恐らく、クロエに。
無理矢理、増強術を引き出された状態で全身が気だるい。それでも無理矢理起き上がって、ハクビは片割れの方を振り返った。
自分と同じ顔をした青年は、顔を両手で覆いながら体を震わせ立ち尽くしている。
まるで、世界の全てを拒絶するように。
その足元には、暗く深い闇が横たわり、青年を飲み込もうとしているように思える。
そして、ハクビの体から溢れ出た光……増強術の力が、その闇に吸い取られ糧とされていた。
← →
戻る