lucis lacrima - 6-9
酷く冷える日だと思った。
シラナギは、召集に応じて神宮内を歩きながら思う。
元々神宮の壁は白く、寒々しいと感じるが、今日はそれとは違い、特に空気が冷えていると感じる。
不意に中庭に面した廊下から外を見れば、明るく眩しい太陽が目を焼く。
良い天気だ。
思わず笑みを零しつつ、今日みたいな天気では、あの光に弱い青年は苦労しているだろうな、と思いを馳せる。
用事が済んだ後は、双子の片割れのもとに向かうのだろうか。
無理だとはわかっていても、こんな天気の良い日には、抱えている苦悩を忘れて穏やかに時を過ごせたらと、そんな事を考えてしまう。
「いつも、会うのは夜が多いからな……」
それも、出兵がない日だけ。
まぁ、戦場で向かい合う仲でないだけ、マシなのかもしれないが。
敵に回したら、厄介な相手だな。
とそんなありもしないことを考えながら歩いていたその時。
不意に、泣き声が聞こえたような気がした。
同時に、ぐっと重い空気がシラナギを包む。
まるで、戦場の夜の闇のように、緊張感に包まれた息苦しい空気……。
「……?」
寒いが陽気な天気に似つかわしくない妙な気配に、前衛隊長は訝しみながらも、歩を進める。
気配は彼がもとより目指していた道中の、曲がり角の方から流れてくるようだ。
悲しく、絶望に満ちた、立ちすくんでしまいそうな……。
「クロエ?」
直角にそびえる白亜の壁に沿って廊下を曲がると、其処には先ほど思考を埋めていた青年が立っていた。
足元に闇を従えて。
「…………」
違う。足元から闇に喰われている。
両手で顔を覆い、まるで泣いている様な状態で。
← →
戻る