lucis lacrima - 7-14

 再び召集された時、総隊長から齎された情報は全隊長を驚かせ、戦慄させた。

「神官長様が、殺害されたそうだ」

 自分達が手を拱いている間に、反乱軍は国にとって最も重要な人物を一人、その手に掛けていたのだ。

 神官長が居なくなったということは、この国の政を纏める人間が居なくなったという事だ。

 国王は、基本的に政を全て神官長と大臣達に任せきりにしていた。

 特に神官長は大臣達のように専門知識がない分、常に中立の立場を取っており、衝突がちな大臣達を宥め、意見を纏めてきたのだ。国王の代わりに。

 早く事態を収拾させて次の神官長を選び出さなければ、たとえ反乱軍を鎮圧したとしてもその後の復興は混乱する事が必至である。

 もっとも、クロエからすれば、神官長など、ただの陰湿で強欲な老人というイメージが強いのだが。

 何より彼が心配していたのは、ハクビだった。

 神官長が殺された今、次に刃が向くのは他の神官達だろう。

 俯いて手を握り締める若い隊長を、正面の末席に座るシラナギは僅かに眉を顰めて見る。

 しかし、他の隊長達の手前、声を掛けることも出来ず、もどかしい思いをその胸の内に押さえ込んだ。

「最早一刻の猶予も無い。他の神官に手が及ぶ前に、神宮へ突入する」

 総隊長の言葉に、他の隊長達が頷く。

「翌朝、夜明けと共に突入し、神官と合流次第、兵に増強術を使用させること」

 その言葉に、クロエは顔を上げた。

 夜明けと共に……それは即ち、昼間動けない彼に対する戦力外通告に他ならない。

 てっきり、前衛のシラナギの部隊か後方の部隊に合同で動くと思っていた彼は、普段ならば絶対にしない口を挟んだ。

「待ってください。俺は……」

「夜になっても事態が収集しない場合、投入を検討しよう」

「そんな……」

 尚も言い募ろうとした若年の隊長を、総隊長の冷たい一瞥が黙らせる。

 これ以上言えば、片割れの身に危険が及ぶぞ、と暗にその目が告げている。

 仕方なく口を噤んだクロエは、肩を落として椅子に身を預けた。

 その間に、突入経路、突入部隊、他、様々な計画と情報が肩を落とした青年の目の前を飛び交っていた。


  
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