lucis lacrima - 7-6
クロエとシラナギの安眠の時間は、唐突なノックに邪魔をされた。
まるで扉を叩き割るかのような激しい連打の音。
何事かと起き上がり、立ち上がろうとしたクロエをシラナギは大きな掌を頭に乗せることで制止し、扉に向かう。
途中、脱ぎ散らかした衣服を手早く着込んでいく男を見て、青年は自分が全裸である事に気付き慌ててシーツの下にもぐりこんだ。
只でさえ、神宮であんな騒ぎがあった後だ。部屋に待機していないのを見付かったら、他の隊長達にどんな嫌味を言われるか判らない。
仕方なく、クロエは、シーツの下で、シラナギと尋ね人の会話に耳を欹てる。
「どうした。騒がしい」
「すいませんね。隊長来てません!?」
喧嘩を売るような怒鳴り声を上げるのは、どうやらルグスのようだ。
だが、彼にしては珍しく、非常に感情を露わにした様子で、捲くし立てている。
「何があった?」
「……神宮が、占拠されたんですよ、反乱軍に!」
「何だと?」
反乱軍に、神宮が、占拠された?
脳内で反芻し、その意味がジワジワとクロエに実感を持たせる。
神宮。大切な片割れが居る場所。
そこが、敵対する反乱軍に占拠されたという。
「ハクビは! ハクビは無事なのか!?」
瞬間、弾けるようにクロエはシーツを跳ね除け、叫ぶ。
驚いたルグスから彼を隠すように、シラナギは立ち位置をさりげなくずらした。しかし、上半身には何も身に着けていない青年の姿は、しっかりと部下の目に入ってしまったようだ。
「何してたんですか、シラナギ隊長?」
「…………」
今にも刺されそうな尋常ではない目つきで睨まれ、シラナギは無表情を装い我関せずを貫く。
だが、クロエにはそんな彼らの攻防などどうでもよかった……否、目に入らなかった。
「ハクビは? ルグス、ハクビは無事なのか聞いている!」
「判らないよ。内部にいた兵は、誰一人として戻ってきてない。
彼らの声明を信じるなら、神官は無事みたいだけど」
部下の言葉に唇を噛んで黙り込むクロエを確認し、シラナギは扉の前に立つ青年を見下ろした。
「他の隊長達は?」
「とりあえず会議室に召集命令が出てます。兵は自室待機。
僕はそれを伝えに来たんです……隊長が部屋に居ないもんで、随分探し回りましたけどね」
敬語は忘れないが、嫌味も忘れない。そんなクロエの部下にシラナギは笑みすら返さず生真面目に頷いた。
「判った。お前は部屋に戻って自室待機していろ」
「僕の上司はクロエなんですけどね」
ぼやきつつも、ルグスは了解しました、と呟いて廊下を引き返す。
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