lucis lacrima - 7-7

 ルグスを見送り、シラナギは黙り込んだままのクロエの元へ戻る。

「とりあえず、服を着ろ。他の隊長達のところに行けば、もう少しマシな情報が得られるだろう。
 考えるのはそれからだ」

「……うん……」

 ぼんやりと生返事を返す青年に、シラナギは肩を掴んで口調強く呼びかける。

「クロエ」

 その声にハッと我に返ったクロエは、優しい眼差しで見つめる男にほんの少し、強張っていた体の緊張を解く。

 そうだ。今此処で考え込んでいても、いい案など浮かばない。ましてや、昼間では。己の虚弱な体は正常な判断など下してはくれないだろう。

「大丈夫だ。あちらには、あの男が居るだろう」

「フェイ……」

 ハクビと寄り添っていた男を思い出す。

 自分に殺意の眼差しを向けてきた男。嘗て、自分が故郷を滅ぼした、その復讐を誓っていた男。

 良く考えれば、そんな男がおいそれと入れる神宮ではなかったはずだ。

 今更ながら考え付いた結論に、クロエは愕然とする。

「多分、彼は反乱兵だ」

 ハクビは、そのことを多分知っていた。初めて会った日、あの男は『ハクビに釘を刺された』と言っていたから。

 でも何故、知っていて尚、男を傍に置いていたのだろうか。もしかしたら、脅されていたのだろうか。 あのハクビが?

 判らない。自分の片割れは、何を考えて、あの護衛を傍に置いていたのだろう。

 クロエの思考は、頭上から降る暖かい男の声に遮られた。

「だが、俺が見た限り、あの男はお前の片割れに随分と肩入れしているようだった」

「……そう、かな」

「あぁ。だから、多分大丈夫だ

 まだ占領されて一日と経っていない。向こうも事態の収拾で忙しいだろうしな」

「うん……」

 納得しないながらも頷きを返した愛しい青年の頭を、シラナギはクシャリと撫でる。

 そして、着替えを急かす様に散らばった衣服を集め、手渡してやる。



 シラナギは言わなかった。

 あの護衛が、クロエの言うとおり反乱軍だとして。

 クロエが大切にしている神官に、彼の予想通りに肩入れしていたとしても。

 この事件が解決した最後まで、神官が無事な保障など何処にも無い事を。



「シラナギ、行こう」

 着替えた青年が、声を掛ける。

 いつものように黒いフードを被る彼の頭を、シラナギは数回、軽く叩いて部屋を出る。

 クロエは、叩かれた頭を己の手で軽く触れ、勇気を出して男の後をついていく。



 大丈夫。ハクビは無事に救い出す。

 そう、早鐘を打つ心臓に言い聞かせた。


  
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