lucis lacrima - 8-10
「邪魔だッ」
一声あげて、扉の前に屯する反乱兵を切り伏せる。
漸く辿り着いた扉。
つい数日前まで片割れが使っていた其処は、クロエの足元で呻く兵を除けば、誰も居なかった。
部屋の主だった片割れも、反乱軍のスパイだった護衛も。
連れて行かれた。
誰に?
王国軍はまだ此処まで来ていない。
その証拠に、王国軍兵の姿も、戦闘の跡すらこの付近で見なかった。
では、反乱兵に連れて行かれたのか?
何の為に?
「此処に居た神官を、何処へ連れて行った?」
「……しん、か……?」
致命傷を負い、出血で苦しむ反乱兵は、蒼い顔をしながら追求の言葉に息絶え絶えに返す。
「若い神官が居ただろう!」
焦りに声を荒げるクロエに、兵は消え入りそうな声を漏らした。
「……しらな、……俺が、きたときには、……だれも……」
これ以上の返答は得られないと分かると、クロエは兵を放り出して部屋を飛び出した。
当てなど無い。ただ、大切なもう一人の自分を探して駆け回る。
太陽の光によろける足を叱咤し、ただただ、自分の為に走った。
早く、早く、顔が見たい。
頼むから……どうか……無事で居て欲しい。
胸の中に、いいようの無い不安が渦巻いている。
その不安を振り払うように、クロエは白い壁に挟まれた通路をがむしゃらに走り続けた。
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