lucis lacrima - 8-6
何処へ行ったのだろう。
あちらこちらで剣戟の音が響き、怒号と断末魔の悲鳴が飛び交う神宮内を、蒼い髪の青年が駆け抜ける。
翡翠色の瞳は忙しなく動き、己の上司の姿を探す。その頬には赤い返り血がこびりつき、服は元の色がわからないほど黒く重い色へと変わりつつある。
突入してすぐ、ルグスはクロエを見失ってしまった。
できるだけ目を離さないようにしていたのに、小柄な体はあっさりと大柄な兵達の中に紛れてしまい、彼が人混みを抜け出した時には既に彼はその場に居なかった。
「無謀にも程があるよ、全く」
尤も、その無謀に自ら付き合う自分にも呆れているのだが。
ルグスは目の前に現れた反乱軍に、幾度目かわからないダガーを三本投げつける。
一本は壁に当たって床へ落ち、一本は一人の肩に、一本は別の兵の足を切り裂いて床に落ちた。
上がる苦痛の声は、右から左へと聞き流し、ルグスは反乱兵の方へと走る速度を上げる。
そして、足を止めることなく袖に隠したスティレットを両腕に持ち直し、仲間を庇うようにして現れた二人の兵へと飛び込んでいく。
気付いた兵が剣を構えるが、遅すぎた。向けられた長剣を避けながら一気に懐へ入り、ルグスはそれぞれの首筋へ切っ先を突き立てて引き抜く。
口から液体交じりの嫌な音を立てながら、敵兵が崩れ落ちていく。それを投げつけるように盾にしながら、体勢を立て直し反撃の素振りを見せる、肩を負傷した兵へ止めを刺した。
足を刺した兵は場所が悪かったらしく、既に顔色悪く床へ臥している。動けない相手に興味は無い。止めを刺すよりも、自分にはやる事がある。
とりあえず、増援が無い事を確認し、血に濡れたスティレットを軽く振って袖に戻すと、ルグスは投げつけたダガーを素早く回収してその場を後にした。
武器の数には限りがある。出来る限り、放置は避けたい。
「隊長、やられてないといいけど……」
ありえないと思いつつ、走る青年はいつもの笑みに苦いものを混ぜる。
チラリと仰いだ空は日が高く青く澄んでいて、彼にはとても不吉なものに見えた。
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