lucis lacrima - 9-5

 途中で見かけた蒼い髪を追いかけ走っていると、途中で何組かの同軍兵と合流し、気がつけば小隊くらいの規模になっていた。

 正直、これだけの兵を指揮する精神的な余裕があるかと言われると、答えは否だったが、途中ぶつかる敵兵や逃げ出した神官達を彼らに任せて先に進めるのはありがたいと思った。

 そうしてたどり着いた先、見つけた惨状に、シラナギは一瞬、何が起きたのか判らなかった。

 だが、他の兵と同じように横たわる、追いかけていた蒼い髪の青年を見つけて、ゾッとした。

 まさか。

 そんな思いが、シラナギの脳裏を掠める。

 青年の体を抱き上げれば、その体はまだ暖かく、呼吸は荒く浅いが確かに感じられる。

 間違いなく生きている。そう実感して、シラナギはとりあえず肩の力を抜いた。

 振動を感じて開かれた瞼が、赤い姿を映す。痛みからか顔が歪むのを見ながら、しかしシラナギは彼を気遣う余裕無く問いかけた。

「何があった?」

 正直、この青年が並大抵の相手にやられるとは思っていない。

 それに何より、一緒に行動していると思っていたクロエが居ない事が、彼の動揺を助長していた。

「……隊長を、止めて……」

 頼りなく上がる指先が、通路の先を指差す。それを目で追いながら、しかしシラナギは、未だ信じられない思いで表情を硬くする。

 どうか、自分の思い過ごしであって欲しい、と。

「仕方がないから……クロエを、アンタに託すよ……」

 かすれた声。今にも途切れそうなそれは、しかし悔しさと無力の念が溢れていて、戸惑う心に決意を促した。

 とうとう、その時が着たのかもしれない、と。


  
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