lucis lacrima - 便りの風3
クロエは内心護衛に同意しながら、此処に来たときから自分達に良くしてくれた、優しいが少々口うるさい老年の神官を思い浮かべた。
「其処はお前の腕の見せ所だろ?」
「無茶苦茶言うなぁ、お前」
あまりにハクビらしい言葉に、クロエは思わず笑う。
そして、同時にホッとした。この護衛と懇意にしていても、ハクビは自分の知っている片割れに違いないのだと。
たとえ、その手が自分から離れてしまったのだとしても。
「ごめんね、クロエ」
「いいよ。大丈夫」
「うん……」
微笑むクロエに向かって、ハクビが手を伸ばす。
しかし、その手がクロエの肌に触れる前に、急かす声が制止した。
「いつまでもイチャついてんじゃねーよ。さっさと行くぞ」
「わかってるよ! そんなに急かさなくてもいいだろ! それとも何?やきもち?」
「言ってろ、ガキが」
既に歩き出した護衛を振り返って怒鳴る片割れ。飛ぶ売り言葉に年甲斐も無く買い言葉を吐き捨てる護衛。
喧嘩するほど何とやら。どんなに言い争っていても、仲がよさげに見えるのは、きっとそういう事なのだろう。
心底名残惜しそうにクロエを見た片割れは、寂しげに笑った。
「じゃぁね」
何故か、またね、という言葉は出てこなかった。
ただ、クロエは笑顔で頷き、去っていく二人に手を振った。
← →
戻る