lucis lacrima - 春祭10
ひらひらひらひら。
白い花弁が舞い落ちてくる。
雪のように美しく。
春の日差しのように暖かく。
「やぁ、……あ、ん」
立ち上がる中心を口内で弄ばれて、ハクビはフェイの短い髪に指を絡めて喘ぐ。
「いっちゃ……だめ、フェイ……、っ!」
昇り詰める感覚に火照る体を震わせ、声をあげる。
その切羽詰った声に、意地の悪い男はふっと口を離し、突然放り出されて不安げな顔を見せる青年に唇を歪める。
「そう簡単にイったら面白くねーだろ」
「……そん、な……、っ」
切なげに揺れる腰を抑えられたかと思えば、後腔に指が入ってきて微かな痛みに眉が寄る。
蠢き増やされる指が暫く痛みを齎すが、やがて迎える快感を思えば大した事と思わなかった。
何より、緩やかに動くその指の動きが優しくて、痛みを快感に変えようと愛撫するもう一方の手の動きが嬉しくて、その心に呼応するように背筋に覚えのある刺激が走り出す。
「……、は……」
明らかに変わった呼吸の色に、フェイは小さく笑みを浮かべてそっと指を引き抜く。
中途半端に放り出されたハクビの中心に指を絡めて、彼は顔を覗き込んだ。
「イイか?」
「う、ん……」
広げられた腕に飛び込むように、フェイはハクビに身を寄せる。
猛る己を先ほどまで指が入っていた場所に埋め、体を重ねて抱きしめられる。
「入った」
耳元で嬉しそうな声で囁かれ、フェイは苦笑いを浮かべる。
顔は見えないが、ハクビはきっと、あの無邪気で妖艶な笑みを浮かべているに違いない。
想像だけで猛る己に呆れながら、そんな自分を誤魔化すようにそっけなく彼は口を開いた。
「動くぞ」
そして、返事を待たずに奥を軽く突く。
「……ん、ぁ……、」
上がる甘い声に気を良くして、それ以上考える事を辞める。
否、考えられなくなった。
そして、二人は互いに熱を解放するまでの長く短い一時の享楽にその心身を投じた。
白い花弁が、金色の男の髪に触れて、暫し留まる。
ハクビは、解放に放心した頭でそれを呆然と見上げていた。
「どうした?」
気付いたフェイに問いかけられて、漸く黒い瞳をその琥珀色の瞳に合わせて、にっこりと微笑んだ。
「花が」
「花?」
「お前の、髪に」
ゆるりと持ち上げた重い腕を髪にそっと当てると、引っかかっていた花がヒラヒラと落ちてきた。
自分に近づいて、視界の端に消える。
変わりに、今度は目の前の男が自分を見て笑った。
「黒に映えるな」
月明かりに照らされた白い花弁が、ハクビの黒い髪を彩る。
たった今落ちた一片も、後から落ちてくる一片も。
フェイは繋がりを解いてハクビの横にゴロンと倒れた。
温もりが離れて急に寒気を感じ、倒れた男に身を擦り寄せる。気付いたフェイは細い体に腕を回して抱き寄せた。
「すっかり暗くなったね」
「城は明るいけどな」
言葉の通り、遠い城の明かりがキラキラと星屑のように煌いて美しく見える。あそこに、神宮と、クロエの居る軍舎も併設されている。
「落ち着いたら、帰るか」
「うん」
けど、もう少し。
もう少しだけ、こうして花を愛でていたい。
男に身を寄せ、ハクビは木を見上げる。
後から後から舞い落ちる春の花の片は、当分途切れそうになかった。
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