lucis lacrima - 春祭6
落ちていく日が春の花を赤く染める。
沈む行く日を睨みながら、青い髪の青年が街中を駆け回っていた。
「どこいっちゃったんだろうねぇ」
顔に張り付いた笑みにも苦いものが混じる。
見張りの交代の時間が迫っているが、一向に現れる様子の無い彼の若い上官に、痺れを切らして探しに出た。
しかし、人通りの多い街中ではその姿は見つけられず。
人混みを避けているかもしれないと考え進むうちに、いつの間にか街の外へ出て城下の塀の近くまで来てしまった。
そこで、不意に見上げた丘の上、一際目立つ赤い髪の人影を見つけて、ルグスは眉を寄せる。
「…………」
何故、こんな所にあの男が居るのか。
よく見ると、白い影と大柄な影も近くに居る。
暫く立ち止まり悩んだ後、彼はゆっくりと人影に向かって歩き出した。
もしかしたら、あの男ならばクロエの居場所を知っているかもしれない。自分の隊長のことなのに、他の隊長に聞くのは腹立たしいが。
近づくうち、赤髪の男が膝に何か黒いものを置いているのが見える。
更に近づくと、それが自分の探していた人物だという事がわかって、ルグスは足を速めた。
「隊長! やっと見つけ……」
声を出すと、気付いたシラナギに睨まれ、ルグスは不意を付かれたその気迫に言葉を飲み込んだ。
決して、気迫に怯んだわけではない。不意を付かれて、驚いただけだ。無意識に、そう自分に言い聞かせながら、彼は男の膝の上を覗き込んだ。
「……ん……」
シラナギの膝に頭を預けたクロエが、軽く身動ぎ、再び吐息と共に意識を深層に沈めていく。
隣で大柄な男と言葉を交わしていた神官の服を着た青年が、それに気付いて近寄ってくる。
その顔は今眠りの中にある青年と瓜二つで、彼がクロエの大切にしている双子の片割れだという事は直ぐに知れた。
「寝ちゃった?」
可愛い、と笑みを浮かべて、その黒い髪をそっと撫でる。
それを夢の中でも感じるのだろうか。ふっと表情を緩めて、クロエは幸せそうな寝顔を見せた。
「もう、時間か?」
それに見とれていると、不意にシラナギに問いかけられルグスは顔を上げて頷く。
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