lucis lacrima - 春祭8
赤く染まる空を見上げて、ハクビが眉を寄せる。
もう、宴は終わりらしい。
「つまんないな」
「あ?」
呟いたハクビの言葉に気付いたフェイが、彼を隣から見下ろす。
「夜の桜も綺麗なんだろうな」
太陽が隠れるのに呼応するように、少しずつ重くなる体。
もう少しすれば、いつものように熱が上がって、座る事も困難になるのだろう。
「……いーんじゃねーの、もうちょっと居たって」
やがて来る体調の変化を嘆く若い神官に、護衛はあっさりとそう言い放つ。
「だって、帰れなくなるよ?」
他人事だと思って、と睨みあげてくる目線を平然と受け止め、男は微笑んだ。
「俺が運んでやるよ」
「フェイ……」
「ま、タダとは言わないがな」
「……ちょ! あぶない!」
突然覆いかぶさってくる大男を避けきれず、ハクビはあっさりと地面に組み敷かれる。
手にしたコップが抜け落ち、地面に酒を撒き散らして転がる。
もったいないと抗議の声をあげる前に、男の唇がハクビの唇を塞がれる。
更に良い様に蹂躙しようと忍び込んでくる舌に、歯を立ててやった。
「イてぇ!」
「ざまあみろ。勿体無い事するからだ」
転がったコップに視線を向けたが、組み敷かれた状態では届きそうにない。
地面を濡らす液体に、残念な思いが湧き上がるだけだ。
「どうせ安酒だ。それに、折角綺麗な花を見せてくれたんだ、木にも分けてやらねぇとな」
見物料だ。そう笑うフェイに、ハクビは呆れた顔しかできない。
「誰か来たらどうするの」
「誰も来ねぇよ。昼間だって来てねぇだろ?
第一、来た所で邪魔するわけねぇだろ」
「噂になると不味いんだけど。やだよ。神宮内で陰口増やされるの」
「そんなもん、俺が知るか」
「ちょっと! フェイってば!」
口では勝てないと踏んだのか、実力行使にでる護衛にハクビは声を荒げるが、力では適わない。
それに、慣らされた体は慣れた指の愛撫にあっさりと陥落した。
「変な噂が立ったら恨んでやる」
「おー、好きにしろ」
それでも、意識だけは奪われまいと必至に口が毒を吐く。
それを右から左へと流して男はどんどん指を進めていく。
白い緩やかな布を剥いで、その下の白い素肌を外気に晒す。
日中は暖かくなったとはいえ、夜はまだ冷える。しかも、夜に向けて嫌な熱を帯びる体には空気がひんやりとして若干寒く、ハクビは体を震わせた。
「……変態。狼。節操無し。」
「あーもー。わかったから、いい加減黙れ」
止まらない毒舌。呆れながら、フェイは露わになった胸元に舌を這わせて感覚に意識を向ける。
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