魔王と救世主 - 1-5

「お疲れですね」

「……あぁ」

 部屋に入るなり、マントも脱がないままパッタリと硬いベッドに倒れこんだ青年に、勇者は笑う。

 そして、軽く断りを入れるとぐったりした青年のマントを脱がし、丁寧にハンガーにかけた。

「後で何か食事を持ってきます。救世主様はお休みになっていてください」

「判った」

 勇者の言葉に同意し、青年はもそもそとベッドに潜り込む。

 体力はある方だが、やはり大男のペースでは疲れる。大抵、街に着くと、一日目は寝て過ごすことが多い。それが判っているので、お互い、自分のやれることを分担するようになっていた。

「食べたいもの、ありますか?」

「任せる」

「はい。ついでに馬も見てきますので、帰りは遅くなると思います」

「……判った」

 徐々に小さくなる声に、明日まで起きないだろうな、とひっそり慈愛の笑みを浮かべながら、男は財布と剣を持ってまだ明るく活気のある市場に繰り出した。



 銀色の髪に赤い目をした綺麗な子供。

 『彼』は気が付いた時には孤児院にいて、孤児院を管理する神父様や他の孤児達と暮らしていた。

 神父様は厳しいが優しい人だった。

 特に、『彼』には期待が大きい分、他の子供達よりも厳しく接してきた。

 御伽噺のような伝説を毎日のように聞かせ、難しい魔法を教え、剣を教えた。

 子供として遊ぶ時間さえ惜しんで、幼い子供にあらゆる戦闘知識を詰め込んだ。


 君は世界を救う救世主だから。

 限られた短い人の一生の間に、魔王を倒さなくてはならないから。


 まるで呪文のように、神父様は『彼』に言い聞かせた。

 周りの大人も、『彼』に多大な期待を寄せた。


 まだ幼かった『彼』が魔物を仕留める度、大人達は称えた。

 流石、救世主様だ、と。


 だが、誰も『彼』を抱きしめようとはしなかった。

 皆、遠巻きに囲んで、褒め称えるだけだった。


 魔物の血を浴びた人形のように美しい子供を、ただ、褒め称えた。


  
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