魔王と救世主 - 10-2

 ただただ純粋に驚いた顔で己を凝視し、返答をしないセナに、セナドールは表情を歪める。罪悪感という名の自嘲に。

「酷い奴で、ごめんな」

「何故、あやまるんだ?」

 何も、謝られるようなことはされていない。

 寧ろ、目から鱗で……己の視野の狭さに驚いているくらいなのに。

 セナは、叱られた子供のように浮かない顔をする青年の両頬を、緩やかな動きで両手に挟んだ。

 そして、情事の後の気だるい体を起こすことが出来なかった為、代わりに両手に僅かに力を込めて、手に包む顔を引き寄せる。

 躊躇いがちに顔を寄せてくれたセナドールの、そのスラリと伸びた鼻梁に、今にも泣きそうな瞼に、柔らかな唇に、触れるだけの口付けをする。

 想いの丈を凝縮した、優しい口付けは、緊張した魔王の強張った体を、心を解していく。

 そして、セナは顔を離すと、にっこりと花のような笑顔を見せた。

「……お前と離れずにすむのなら……この世界に未練など無い」

 お前の居る世界が、俺の居たい世界だから。

「セナ……いいのか?」

 仲間を、養父や、今まで出会って分かれてきた全ての絆を、無に返しても。

 たった、ほんの数ヶ月共に過ごしただけの、しかも宿敵である魔王の為に、全てを投げ打っても。

「構わない。……言っただろう?
 お前の居ない世界で、俺は生きていけない……」

 魔王が傷つき離れていた、つい先程までの胸の痛みを思い出して、セナの視界が滲む。

 ほんの少し思い出すだけで、こんなにも恐怖と絶望に押しつぶされそうになるのに。

 もう、ほんの一秒でも、離れることなど、出来そうに無い。

 思わず零れたセナの涙を唇で受けとめ、今度はセナドールが優しく微笑んだ。

 安堵と、幸福と、感謝と、開放感と、愛しさと、希望。色々な感情が交じり合った、思わず見ている方も微笑んでしまいそうな、そんな幸せな笑顔。

 その笑顔を見た、それだけで、セナの心の暗雲は、何処かへ吹き飛ばされてしまうほど。

 笑い合って、二人で幸せを噛み締めて。

 これから訪れる未来を想い、二人は、互いの指を絡め、手をしっかりと握り合った。


  
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