魔王と救世主 - 10-6
半分のぼせながらゆっくり湯に浸かった後、二人は部屋に戻って服を着替える。
セナは、以前セナドールから貰った、品のよい神父服に、純白の救世主の剣を腰に下げて。
セナドールは、金の刺繍が鮮やかに彩る黒いインナーに、真っ白なファーの付いた重厚なクローク。そして、腰には漆黒の魔王の剣。
「……凄いな」
まさに王と呼ぶに相応しい、豪華で煌びやかな衣装に、セナの口から思わず感嘆の声が漏れる。
「結構重い上に、ファーが熱い」
だから、滅多に着た事が無い、と苦笑する青年の足元に、笑いながらセナは腰掛けたベッドの上から手を伸ばした。意図を察し、近づく魔王のクロークの裾を持つと、確かにずっしりと重みがある。
湯上りの体には酷だとは思ったが、初めて見た魔王の正装はセナドールに良く似合い、見惚れさせるには十分で。
「良く似合う」
愛する男を見上げて、セナはふわりと花が綻ぶように笑った。
その顔があまりに幸せそうで、あまりに美しくて、セナドールも同じように笑い返す。
「着た甲斐があったな」
魔王は救世主の唇に己の唇を寄せ、そのまま手を華奢な体の背に回す。そのまま縺れるように二人で寝台に倒れこみ、顔を見合わせて、また笑みを交わした。
「こんなに笑ったのは、初めてかもしれない」
「良い事だ。……俺の前で、もう、二度とあんな顔をするな」
牢に居た時に見せた、この世の終わりのような悲しみと絶望に彩られたような顔を。
表情を曇らせるセナドールに、対するセナは、そんな心配はしなくて良いと微笑む。
「お前が居れば、もう、大丈夫だ」
触れていてくれれば。名前を呼んでくれれば。傍で笑って居てくれば。
もう、恐れることなど何も無い。
「……そうか」
まだ、セナを巻き込む罪悪感が残っているのだろう。セナのあまりに幸せそうなその笑みに、セナドールは少し切なげに笑うと、ただ、それだけを返す。
そして、少し体を離し、改めて救世主と向かい合った。
「さて、どう決着をつける?」
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