魔王と救世主 - 2-4
目を開けると、見知らぬ天井が視界いっぱいに広がる。
頭が重い。自分が何故こんなところにいるのか直には把握できず、銀髪の青年は身じろぎ一つせず、ぼうっとそれを見つめた。
とても、心地よい空間だった。
下着一つ身に纏わない、異常な己の状況を忘れさせるほど、空調は心地良く調整されている。
肌を包む上下のシーツの感触は柔らかで、覚醒したはずの思考を再び優しい闇へと誘おうとする。
手足に繋がった銀色に鈍く光る枷で自由が抑制されている事を除けば、これ以上の優遇はないだろう。
……捕らわれの身としては。
とりあえず、魔物に捕らわれたことを思い出した青年は、何ともならない状況に無駄な抵抗を諦め、体力を温存することにする。
寝かされたベッドの上で、再び音もなく瞼を閉じると、横から声が聞こえた。
「良く寝る奴だな」
「…………」
楽しそうな声。若い男のものだ。いつから居たのだろうか。気配は全く感じなかった。
青年は内心僅かに驚きつつ自由になる顔を横に向けると、金髪の青年が近づいてくるのを見た。
顔立ちは悪くない。
金色の髪は太陽の光のように眩しく輝いていて、その内に満ちる力を示すように左右に跳ねている。
瞳は宝石のような、しかし冷静で頭の切れる感じを受ける燃える赤い色。自分の目の色と同じはずなのに、此方は随分と生命力に溢れている感じを受ける。
全体的に落ち着いた色合いの、動きやすそうな品のよい衣装に身を包んだ青年の腰には、立派な装飾の施された剣が差してあった。
「……本当に、丸裸で連れてくるとは思わなかったな」
金髪の青年はそう言って楽しそうに目を細め、ベッドに散った銀糸を一房手に取り、唇を寄せる。
視界の端に移る己の髪は、此処にきて手入れされたのか、艶を増して光を反射し、輝いていた。
ベッドに拘束された捕虜は表情一つ変えず、それを赤い無機質な瞳でじっと見つめる。
「綺麗だな」
「…………」
賞賛の言葉に、青年は答えない。
ただ、無言で目の前の男のすることを見ているだけだ。
彼の正体と、目的を探るように。
「名前は?」
しかし男は身分を明かさず、人形のようにされるがままの相手に、玩具を手に入れた子供のような目で問いかけてきた。
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