魔王と救世主 - 2-6
救世主は、自分の容姿を良くわかっていた。
同性にとって性欲の対象になることも、この長い旅で嫌というほど学んだ。
酒場で誘われたことも、道中で襲われたことも少なくない。そしていつも、傍らに居た勇者が威嚇するか、己の術でその場を切り抜けてきた。
こんな風に、逃げ場のない貞操の危機に直面したことはない。だが、今、彼の胸中は驚くほど静かで、まるで他人の出来事を見ているような気分だった。
投げやり、というよりは、興味が沸かない……命に危険がないのなら、貞操など些細なこと……そんな感覚だ。
「……、……」
魔王の赤い舌が、ねっとりと細い首筋を辿り、彼は喉を震わせる。
乾いた王の指は、外気に晒された細い裸体を感触を楽しむように撫で回し、時折胸の尖りや臍のくぼみを擽るように愛撫している。
救世主は、手足を拘束されたまま、初めての肌を弄ばれる感触に眉を微かに寄せて僅かに息を乱す。しかし、抵抗は見せず、ただじっと耐えていた。
日々訓練を怠ってはいないが、華奢な自分が腕力で魔王に敵うとは思えない。
魔法を使おうにも、長い呪文を唱えなければならないため、これほどの至近距離では直に妨害されて終わりだろう。
何より、無駄な抵抗をして相手の怒りを買い、命を危険に晒すよりも、大人しく従って体力を温存する方に利点を見出していた。
「声、上げていいんだぞ」
「…………」
笑う魔王を、救世主は感情のない赤い眼で見返し、直に瞼の下に隠す。これも抵抗と言えば、そうなのかもしれない。
実際は、どんな顔をすればよいのか、わからなかっただけなのだが。
何を言っても無駄だと思われる状況に、魔王はそれ以上何も言わず、目の前の体を楽しむことに決めた。
反応を見せ始めた中心を握りこみ、上下に扱く。動きを早めればそれは硬さを増し、手の中でビクビクと陸に上げられた魚のように跳ねる。
「……、ふ……」
はじめは涼しい顔をしていた救世主も、流石に弱みを握られては反応を返すしかない。
元より、抵抗する気など無いのだ。
楽しませる気もないが、経験の少ない体では、与えられる手練れた快楽を我慢する術などない。
「好きにイっていいぞ」
漸く返った僅かな反応に気をよくした魔王は、そう言うと手を巧みに動かして、開放を促す。
さすが、300年も生きていれば経験も豊かなのだろう。あっという間に、若い牡は高みへと引き上げられる。
「……、は、ぅ、……く、ぅっ……」
シーツを握り締め、与えられる快楽に悶えていた青年は、あっさりと魔王の手の中に白濁を散らした。
← →
戻る