魔王と救世主 - 3-10
朔月の宴。月のない夜。
その晩だけは、魔王城は煌々と明かりがつけられ、夜が明けるまで魔物達は食し、謡い、踊りあかす。
そして、その日だけ、テーブルには人の肉を使った料理が並べられた。調理されたもの、炙っただけのものから……生肉まで。
勿論、人肉が苦手な魔物もいるが、その日だけは城の調理場で他の肉は一切使われない。食べたくなければ、自分で食料を調達するか、食べなければ良い。そういう日なのだ。
「今日も良い収穫でしたな」
側近を務める魔物、レヴァが、皺の多い顔に愛想笑いを浮かべて魔王の傍に寄る。
王座に足を組んで頬杖を突いた魔王は、赤い目を細めて楽しげに嗤った。
「骨のある奴も多かったな」
腰に下げた黒い魔剣の柄を指で撫でながら、冷酷な笑みでそう評する。
今日は城に向かう勇者一行を3組ほど処分した。
以前貰った報告ではもう少し多かったと思うが、恐らく他の魔物共にやられたのだろう。同行したレヴァの先見にはそれ以上映らずそのまま帰城した。
「来城した者共も、良い献上物が多かったですしな」
「そうだな。……媚を売ったところで、何かしてやるわけでもないが」
「宴の参加料のつもりなのでしょう」
レヴァの言うとおり、元々この城で働いている魔物ならともかく、方々に散る魔物達は魔王に何の繋がりもなく、城に入るのも一苦労らしい。
そこらへんの管理は側近である彼に一任しているので、魔王自身は詳しく知らないが。
ならば、良い献上物で自分を売り込もうというわけだ。
そういうところは、人間と大差ない、と王は蔑むように宴で盛り上がる魔物達を見やった。
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