魔王と救世主 - 4-6
「……セナ……」
ずっと堪えていたからだろうか。いつもより意識が朦朧としている耳に、はっきりと魔王の声で、自分の名が紡がれるのが届く。
ずるりと体内から魔王の一部が抜けていき、密着していた熱い体が横に移動して寝台が揺れた。
「……セナ、……」
天井を向いたまま呆然としている顔を、節くれだった男の手が横に向かせる。
金髪の青年は、満足げな笑顔で唇を啄ばんできた。
呼びかけに応えたいのに、整わない呼吸と上げつつけた嬌声のせいで、喉が張り付いて声にならない。
だから、いつの間にか背から離れてしまった手を、もう一度魔王の腰に回して、何とか力を込めた。
重い疲労感に襲われた体の力など、本当に微々たる物だ。思うように密着できないもどかしさに捕らわれていたが、それでも、きちんと意図は伝わったらしい。
魔王は、笑って、ぎゅっと彼の体を抱きしめ返してくれた。
熱い体。自分も熱い筈なのに、目の前の青年の方がずっと熱く感じる。
緩まない逞しい腕の中に抱かれて、セナは再びあの不思議な感覚に包まれていた。
フワフワとした暖かで蕩けるような、泣きたくなるほどの安心感。
いや、実際に彼は泣いていた。
悲しいわけじゃない。どちらかといえば、喜び、に近い。
けれど、ただ『喜び』と称するには、胸を締め付けられる痛みと得体の知れない不安が不可解だ。
「泣くなよ、セナ」
「……わから、ない……とまらない……」
「ずっと、傍に居てやるから」
誓うように力の篭められた腕の中で、セナは泣きつかれて眠りに付くまで、青年の胸を濡らし続けた。
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