魔王と救世主 - 4-7
いつものように、二人一緒に向かい合って朝食を摂る。
朔月の前日までは当然だった風景なのに、たった2日離れていただけで、随分と久しぶりのような、妙に安心した気分になるのは、きっとお互い心を許しすぎている証拠だろう。
このままでは良くない。
救世主として、魔王としての自分が警鐘を鳴らすが、それはあまりに遠く掠れて、目の前にある甘い世界に浸る二人には全く意味を成していなかった。
「鎖を緩めておく」
「……?」
食事の後、出かけてくる、と告げた魔王は、部屋を出る前にそう言った。
救世主は何のことかわからず、感情の薄い疑問顔で目の前の青年を見つめる。
「城内は自由に歩きまわれるようにしておくから、好きに探索なりなんなりするといい」
暇だろう?と付け足した彼は、銀色の髪を慈しむ様に撫でて笑みを浮かべる。
その優しさを享受しながらも、救世主は表情一つ変えず魔王を見つめる。だが、その赤い瞳の奥には、打ち解けた暖かい色がちらついていた。
「ただ、城にはお前の事を疎む奴も多い。一応キーズに注意するよう言っておくが、お前も気をつけておけ」
そのキーズ本人に、自分はつい一昨日襲われたのだが。
そう思いつつ、昨日今日のあの怯えた様子では、もうそういうことは無いだろうと、セナは言葉を飲み込んだ。
「……わかった」
多分、この部屋から出ることは殆どない。そう思いながらも、彼は魔王の言葉に大人しく頷く。
「キーズ、頼んだぞ」
多分、魔王も二人の間に何かあったことは気づいているだろうし、もしかしたら報告も受けているかもしれない。
しかし、それには一切触れず、魔王は朝食を下げる配下に一言告げた。美しい黒髪の魔物も、ただ同意を示す頷きを返すだけだ。
それに満足げに頷いて、金髪の魔王は愛しい救世主の髪に口付けを軽く落として、城を後にした。
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