魔王と救世主 - 5-14

 結局、彼らは3日程村に滞在した。

 二人で子供達に勉強を教え、時には遊び相手になり。
 銀髪の青年は神父らしく、村人達の簡単な怪我を治療したり、悩みを聞いたりもした。
 金髪の青年はといえば、畑仕事や動物の世話を好んで手伝っていた。

 まるで、本当に村の一員になったように、皆親切で優しく彼らを受け入れてくれた。

 いや、実際、村人達は、いつもの金髪の『セナ』だけでなく、銀髪の『セナ』も村の一員だと……彼らが村を後にする時、いつでも帰ってこればいいと、そう送り出してもらったのだ。

 魔物と人間が共存する村。

 世界には、まだまだ知らないことが沢山あるのだと、不思議な気持ちで救世主はそこを後にした。


「さすがに、神父は凄いな」

 勉強に、医療に、人生相談に、何でもありだ。と明るく笑う金髪の青年に、銀髪の神父は無表情のまま、なんとも言えない雰囲気を醸し出す。

 今、二人は手を繋いで森の奥へと歩いてきていた。

 もう、村は木々の間に隠れてしまい、彼らの周囲を囲んでいるのは緑と、隙間から差し込む陽の光と、鳥や動物の声と息吹だ。

 流石に村の中で空間移動のような大きな魔法を使うと、金髪の青年の正体がばれてしまう。だから、行きと同じように、少し村から離れた場所から城へと帰ると、青年は説明した。

 後に知ったことだが、あの共存の村は、魔王の城から馬で駆けても半年は掛かるらしい。そんな距離を一瞬で移動できるのだから、魔王の魔力の凄さは底知れない。

「……俺は、神父じゃない」

「……? どうした、急に」

 藪から棒に、自分の職業を否定した銀髪の青年に、前を歩く青年は足を止め驚いて振り返る。

 その驚いた顔を無表情で受け止めて、爆弾発言をした青年は淡々と説明し始める。

「あの服は、旅に出る時に育ててくれた神父様が餞別にくれたもので、当時17歳だった俺は、神父の資格を取れなかった」

 神父になるには、最低でも20歳以上という年齢制限がある。他にも色々条件はあるが、それらをクリアして、協会から許可証をもらって、初めて神父を名乗れる。

 修行の為に、見習いとして20歳未満で神父じみた活動をする若者も居るが、そういう人たちは『神父見習い』と呼ばれ、正式な神父とは区別されている。

「ってことは、神父見習いってことか」

「神父になるつもりはないが、世間的にはそうなるな」

 もっとも、神父としての教養は十分あるし、年齢以外の条件も今はクリアしているので、協会に行けば直にでも資格を取れるのだが。

 魔王を倒すことしか興味がなかった彼は、その全てを無視して今まできた。

 神父服を着続けたのは、ただ単に動きやすかったのと、体に馴染んだからに過ぎない。

「なんで言わなかったんだ?」

「聞かれなかったから……別に、騙していた訳ではない」

 あっさりと返せば、お前らしい、と笑いが返って、何故か銀髪の青年はホッとした。

 もしかしたら、黙っていたことで不快にさせたかもしれないと、彼らしくなく心配していたのかもしれない。

「しかし、なんで急に話してくれたんだ?」

 別に、黙っていたところで問題なかっただろうに。そう暗に告げる相手に、神父の振りをした救世主は戸惑いながら視線を逸らした。


  
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