魔王と救世主 - 5-3
浮遊感は一瞬。
次に目を開けた時には、既に世界の様相が変わっていた。
そこは、深い森の中。
だが、魔王城の周囲を取り巻く暗い森ではなく、木漏れ日から太陽の光が降り注ぎ、動物や草花の息吹が溢れる爽やかな所だった。
「ここは……?」
「目的地に一番近い森だ。突然目の前に人が現れたら、ビビルだろ?」
そう答えながら、魔王は、抱き合っていた体を離して歩き出す。その足取りは迷い無く、彼がこの森に慣れていることが窺えた。
救世主は置いていかれないよう、少し早足でその後ろについて歩く。
時折鳥の声が遠く聞こえ、久々の清清しい外気に視線を向ける。
「そうそう、俺は此処ではただの人型の魔物、ってことになってる。間違っても、『魔王』なんて呼ぶなよ」
「……わかった」
途中、そう言われて、救世主は驚きつつも頷く。確かに、こんな場所に『魔王』など、似つかわしくない響きだ。
この金髪の青年自体は、こういった開放的で野性味溢れた自然がこの上なく似合うような気がするのだが。
「見えてきたぞ」
木々の間に見えた、こじんまりとした門……というより木で出来た簡易な柵だ……を指差して、魔王が救世主を振り返る。
『魔王』でないなら、なんと呼べばいいのか。
向けられた笑顔を見て、銀髪の神父は当たり前の質問に思い至る。
しかし、直に目的地の柵へと到着してしまい、その周辺に見かけた村人の姿に、結局質問するタイミングを失ってしまった。
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